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子どもが楽しめる療育を!支援者・当事者としての思い【Vol.5】STシマウマさん

言語聴覚士。ことばによるコミュニケーションに難がある方に専門的なサービスを提供し、自分らしい生活を構築できるよう支援する専門職である。

小さな子どもをもつ親は「子どもがなかなか言葉を話さない」「特定の発音が難しい」など、言語発達に課題や不安を感じたとき、彼らの支援を受けたくなるだろう。

しかし残念ながら、生活圏内でアクセスできる小児分野の言語聴覚士は非常に少ない。

そこでこの連載では、小児分野の言語聴覚士やその育成に関わる方に話を伺い、子どもの言語発達に関するトピックや、言語聴覚士としての活動内容などを紹介する。

子どもの言語発達に悩むすべての人に、この記事が届きますように。


今回お話を伺ったのは、言語聴覚士として働きながら、知的障害を伴う難病をもつ子どもを育てているSTシマウマさんです。

支援を受けている当事者としての思いや、よりよい支援を受けるためのコツなどについて教えていただきました!

STシマウマさん

九州のリハビリテーション専門学校で言語聴覚学科を卒業。卒後、療育センターに勤務し、現在は行政で主にことばと発達の相談・療育を行っている。今年度より訪問リハビリも開始。プライベートでは、末子の難病と障害に挫けたり、天真爛漫な長子のきょうだい児ケアに悩んだり、ホルモンバランスに振り回される2児の母。

子どもに関わる仕事がしたい!療育センターや市の「ことばの相談室」で働く

——はじめに、シマウマさんが言語聴覚士になった理由や、現在のご勤務先を教えてください。

シマウマさん(以下略):私は元々子どもに携われる仕事に就きたいと考えていて、高校を卒業したら歯科衛生士になろうかと考えていました。そんなとき、高校の進路相談の先生が言語聴覚士という仕事を教えてくれて。言語聴覚士も国家資格だし、子どもに関わることもできるので、興味を持って九州の専門学校へ進学しました。

当時驚いたのは、専門学校の同期のうち、9割が成人分野を希望していたことです。小児分野は「保護者との関わり方が難しいのでは…」と思われていた印象があります。それでも私は小児を希望して、療育センターに就職。そこで3年間勤務しました。

その後、結婚して関東圏へ引っ越します。人口の多い関東で子ども達とのどんな関わりがあるかと期待していましたが、「小児分野の求人がなかなか見つからないな…」と思いながら、育児に集中していました。

そうしたら、新生児訪問で来てくれた保健師さんから「市役所の『ことばの相談室』で言語聴覚士を募集しているよ」と教えてもらったんです。そのご縁で、今はことばの相談室で働いています。今年度からは平行して訪問リハビリ施設でも勤務中です。

——九州地方と関東地方とでは、言語聴覚士に出会える可能性はかなり差があるのでしょうか。

私の体感ではありますが、九州の福岡などは療育センターがいたるところにあって、親御さんやお子さんがもつ選択肢は多いと感じていました。また言語聴覚士の勤務先も多くあったと思います。

一方、私の住む関東の田舎エリアは、医療機関や福祉施設自体が手薄で、言語リハビリに対する意識もあまり高くないように感じています。だから言語聴覚士や言語訓練自体を知らない人も多く、支援を受けたいというニーズはあるけれど、実際に支援に繋がることができる人はあまり多くないのかもしれません。

難病ながら予想以上に成長する我が子。つい期待してしまう苦しさ

——下のお子さんが難病を抱えていて、言語聴覚士の支援を受けていると伺っています。どんな状況で、どのような支援を受けているのでしょうか。

息子は今2歳で、生後8ヶ月のときに指定難病と診断されました。脳に関する病気で完治は難しく、知的な遅れ、ことばの遅れもみられます。現在の発達状態は1歳2〜3ヶ月ほどで、有意味語は出ていないけれど喃語や身振りで意志疎通がとれる、という状態です。

この地域に引っ越してきてから、療育を受けられる施設になかなか巡り会えなくて、現在は私の勤務先でもある「ことばの相談室」で支援を受けています。ことばがでる前ということもあり、臨床心理士さんに担当してもらっています

息子は今「ひとつの課題を最後までやる」ということにトライしています。あまり体力がなく、集中するのも難しいので、なかなかひとつの課題を完成させることができません。そこで、支援者にうまく誘導してもらい、小さな課題をクリアしながら成功体験を積んでいけるようにしてもらっていますね。

療育で課題に取り組んでいる様子

ちなみに、臨床心理士さんは発語がある前の段階での支援や検査全般を得意としています。もし言語聴覚士に出会えない人は、臨床心理士さんを探すのもよいかもしれません!

——息子さんの難病が分かったとき、どのような気持ちでしたか?

それはもうショックでしたね……。生後8ヶ月という、これから成長が楽しみな時期に難病だと分かったので、よりショックでした。

しかもその病気は、言語聴覚士の勉強をしているときに教科書で見ていたものだったんです。まさか自分の子どもが…と思いました。

普段の療育でも、できない点や課題が見えてしまうからこその焦りがあります。知識があるからこそ、余計につらいのかもしれませんね……。療育は本当は夫に行ってほしいくらいです(笑)。

——そうですよね……。その気持ちには、どう折り合いをつけてきたのでしょうか。

気持ちの折り合いはついていないし、今だって「治ってほしいな」「発達が進んでほしいな」と思っていますよ。

だってうちの子、普通に歩くんです!この難病は歩けない子が大半なので、つい「奇跡の子かな…?」と思ってしまいます。でもそうではないことも、頭では理解しています。

実は以前の勤務先で、その難病のお子さんを担当していたことがあるんです。その子は重い障害があるし、様々な処置は日々あるけれど、好きなことがたくさんあって、家族にも愛されて、楽しく生活を送っていることが見てとれました。

それでもやっぱり、未来に絶望してしまう自分がいます。

でもこれは私だけでなく、子どもの発達に悩みを抱える親は、皆どこかで「うちの子は治ってほしい」「普通に生活できるようになってほしい」と思うのではないでしょうか。

病気の受容は一生できないのかなと思います。だから、時間とともに折り合いをつけていくのかなと感じていますね。

支援者の資格だけでなく「子どもとの相性」も見てほしい

——ここからは、療育でのちょっとした疑問についてお聞きします。まず、療育センターなどで保育士や児童指導員の方から支援を受けている場合、言語聴覚士を探して支援を受けるべきなのでしょうか。

必ずしも言語聴覚士だからよい、それ以外だから悪いというわけではないと思います。

療育センターや児童発達支援施設では、児童指導員さんや保育士さん、臨床心理士さん、理学療法士さん、作業療法士さんが関わることも多いでしょう。各分野のプロがさまざまな角度からお手伝いするので、それぞれで新しい発見があるかもしれませんね。

また言語聴覚士はそれぞれに、手技や考え方、得意なことが少しずつ異なります。そういった技術面の相性や、お子さんとの性格的な相性で選ぶのもよいと思います。

——もし今の担当者と子どもとの相性が悪いと感じたときは、担当変更の希望を伝えてよいものでしょうか…?

要望があるなら、ぜひお伝えいただきたいです!言語聴覚士としても、お子さんとの相性があるのは理解していますから。もちろんクレーム扱いにもならないので安心してください。

ただ支援者も「人」なので、感情的なお言葉をいただくのはきついなと思います。感情が爆発してしまう前に話し合うことができれば嬉しいですね。

また、施設によっては食べることや聞こえの練習を行えない場合もありますので、希望する訓練が受けられないこともある点はご理解いただきたいです。

療育を受けたから正解、ではない。子どもとともに成長を楽しめる場を探して

——シマウマさんの言語聴覚士としての展望をお聞かせください。

これからもずっと、小児分野の言語聴覚士として働いていきたいです。小児を担当できる言語聴覚士は少ないので、就学以降に支援がとぎれてしまうことが多いと思います。でも可能なら、就学以降の子どもにも関われるとよいですよね。

臨床心理士さんも含めて、小児分野での仲間を増やしながら、多くの子どもたちをフォローしていきたいと思います。

——最後に、子どもの言語発達に悩む親御さんへ向けて、メッセージをお願いします。

最近息子の主治医とも話したのですが、「療育」ってとても曖昧なものなんです。早くから療育をやったから絶対に能力が伸びる!という保証はなく、はっきりと効果が科学的に証明されているわけでもありません。

なので、早く療育を受けさせなきゃと焦ったり、絶対に療育を受けなきゃ!と思い悩む必要はないんです。それよりも、お子さんのタイプやそれぞれのご家庭の都合に合わせて、療育を受ける場所やタイミングを選ぶほうが重要かもしれません。

ご相談が込み合う時期もありますが、言語聴覚士はいつでもお待ちしておりますので、生活のペースに合わせてご相談ください。療育の内容や金額感も無理のない範囲で検討していただきたいです。

療育を希望する皆さんが、子どもたちの小さな成長を支援者と一緒に喜べるような療育に出逢えたらいいなと思います。

そして、すぐには病気や障害を受容しきれなくてよいと思います!自分を責めずに、子どもの変化を楽しんでいきましょう。

STシマウマさんTwitter


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