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「発語がない子はまだ対応できない」って本当?療育にまつわる疑問に答えます【Vol.8】言語聴覚士MAMIさん

言語聴覚士。ことばによるコミュニケーションに難がある方に専門的サービスを提供し、自分らしい生活を構築できるよう支援する専門職である。

小さな子どもをもつ親は「子どもがなかなか言葉を話さない」「特定の発音が難しい」など、言語発達に課題や不安を感じたとき、彼らの支援を受けたくなるだろう。

しかし残念ながら、生活圏内でアクセスできる小児分野の言語聴覚士は非常に少ない。

そこでこの連載では、小児分野の言語聴覚士やその育成に関わる方に話を伺い、子どもの言語発達に関するトピックや、言語聴覚士としての活動内容などを紹介する。

子どもの言語発達に悩むすべての人に、この記事が届きますように。


今回お話を伺ったのは、小児分野の言語聴覚士として長いキャリアをもつMAMIさんです。「担当者から『発語がない子どもはまだ対応できない』と言われたけれど、それって本当?」など、療育を受けたい親御さんが抱く疑問・質問に答えていただきました!

MAMIさん
ST歴14年。宇宙理論で生きている神社仏閣大好き人間です。主に小児の発達支援、中途障がいの成人の就労支援に携わっていました。現在はフリーで子育てサロンにボランティア参加し、親も子も笑顔で幸せな人生を!をモットーに活動中。

子どもやコミュニケーションに携わる仕事に興味を覚え、言語聴覚士に

——はじめに、MAMIさんが言語聴覚士になった経緯や、小児分野で働こうと思った理由を教えてください。

MAMIさん(以下略):

元々は、幼い頃に祖父が作業療法士のリハビリを受けていたことや、学生時代にカメラ屋でアルバイトをしていた際、ろう学校の先生がたびたび来ていたことから、作業療法士や手話通訳士に興味がありました。

特に、手話通訳士になろうと真剣に考えていました。お客様は皆平等なのに、ろうの方だけあまり話せないのは不公平だから、手話講座を受けて手話を覚えたんです。そうしたら、ろう学校の先生がとても喜んで、どんどん話してくれるようになって。嬉しかったですね。

しかし手話通訳士の仕事だけで生活できる方は少ないと知り、近しい仕事として言語聴覚士を勧められました。しかも言語聴覚士なら小児でもニーズがあるといいます。大学時代に児童相談所でボランティア活動をするほど子どもが大好きなので、小児分野の言語聴覚士になるために資格を取得しました。

——これまで、どのような場所で言語聴覚士として働いてきましたか?

徳島県の小児科や東京都内の療育センター、千葉県某市の言葉の相談室など、掛け持ちを含めると6〜7箇所ほど勤務しました。また個人で訪問リハビリも行っていましたね。

どこも言語聴覚士として採用されましたが、業務内容や提供した支援、人員体制はさまざまです。例えば、東京都内の療育センターでは、心理分野に近い内容で支援を行っていましたし、千葉県某市の言葉の相談室では、言語聴覚士が8人在籍していたので、2名体制で療育を行っていました。その後勤めた療育センターでは、主に重症心身障害児のケアを担当。

言語聴覚士の業務範囲は非常に広いので、そのとき学びたいことが学べる現場を探して勤務し、さまざまな知見や経験を得てきました。

日頃使っている教材。その子どもに合わせて手作りするのが基本だ

親が抱きやすい「療育にまつわる疑問」への回答

——ここからは、子どもの言葉の遅れに悩む親御さんが抱きやすい疑問に対して、お答えいただきたいです(編注:回答はあくまで個人の見解であり、すべての人に当てはまるものではありません。参考程度にとどめていただきますようお願いいたします)。

まず1つ目の質問です。まだ発語がない場合、自治体や病院にいる担当者などに「発語がない子どもはまだ支援を受けられない」と言われることがあるそうです。発語が出ないうちに受けられる支援はあるのか、本当に発語が出てから支援を受けた方がよいのか……いかがでしょうか?

個人的には、発語がない段階から言語聴覚士が介入することは可能だと考えています。まだ言葉の出ないお子さんがいらしたときは、その状態を見て今やれることをお伝えしていますね。比較的、心理分野からのアプローチが多くなると思います。

ただし、自治体や病院によっては、言語聴覚士は発語のある子どもに対応し、まだ発語のないお子さんには公認心理師や作業療法士などが対応するケースもあります。言語聴覚士の個人的な意見だけでなく、その事業所の考えや人員不足も大きく影響しているかもしれないです。

とはいえ、親御さんがお子さんの発達について悩み、支援を必要としていれば、相談に乗るべきだと思いますが……。

また、施設によっては、お子さんの障害によって言語聴覚士がみるか心理士や作業療法士がみるかを区分けしています。この区分けの理由も親御さんにしっかり説明したほうがいいですよね。「なぜうちの子は言語聴覚士にみてもらえないんだろう…」と思っている親御さんは、その理由を施設側に聞いてみると疑問が解決するかもしれません。

——2つ目の質問です。言語発達を促すために、何か自宅でできることはありませんか?

お子さんと同じ目線で遊び、お子さんの真似をしてあげることをおすすめしています。例えば、ジェスチャーが出ているお子さんには、親御さんもジェスチャーを使うなど、その子が発しているコミュニケーションの手段を使うんです。

真似・模倣は学習のベース。まずは親御さんがお子さんの真似をして「真似されると楽しいんだな」とお子さんが理解できるようにします。すると、言葉の理解に繋がるだけでなく、お子さんが親御さんに対して「この人はわかってくれるんだな」と感じるようになります。

発語が出ていないと「言葉を使わなきゃ!」と思うかもしれませんが、言葉に身振り手振りをつけると視覚的な記憶が残り、聴覚的な記憶が残りにくい子でも覚えやすいという効果もあります。まずはお子さんに合わせてコミュニケーションをとってみてください。

また、発語がなかなか出ないと「言葉のシャワーを浴びせないと!」と思うかもしれませんが、むやみに多くの言葉を聞かせても、効果があるとは言いにくいです。それよりも、一緒に遊びながら、ぼそっと「車だね」「楽しかったね」など、的を得て言ってあげるとよいと思います。

このとき、お子さんの目線が逸れていることがあるので、目線をよく見て言葉を付け加えるといいですよ。

あとは、お子さんと一緒に楽しく笑って、好きなものでたくさん遊んであげてください。お子さんにとって親御さんは「一番の安全基地」なので、一緒にいるだけでいいんです。

でもそう言われると重荷に感じることもありますよね。血の繋がりがあると、イラっとすることもあるのは当然です。だから、できるときにやってみるくらいでよいと思います

就学前後の悩み、どう解決すればいい?

——3つ目の質問です。難聴やLD(学習障害)など、言語発達の周辺にある障害を子どもが抱えているとき、どんな支援を受けるのが適切なのでしょうか。

そのお子さんによって、適切な学び方が違うと思います。聴覚からアプローチする方がよいか、視覚からアプローチする方が入りやすいか、全体把握が得意なのか、細部からの把握が得意か……。

そのお子さんに合った学習の仕方や関わり方を探すためにも、難聴やLDなどの専門機関も含めて、専門家にかかることが理想だと思います。

聴覚については、ろう学校を紹介することもあります。聞こえに関するセミナーを開催していることがあるんです。ただ、心理分野からアプローチできることもあるので、できれば複数の機関を併用して、適切な対応を探してもらうといいですね。

LDも同じで、感じ方や対応がそのお子さんによって異なります。そのお子さんによってやりやすい方法を見つけてあげるといいでしょう。

——4つ目の質問です。就学先を普通級にするか支援級にするか迷う場合、どのように検討したらよいのでしょうか。

できれば、お子さんとともに就学先候補を見学することをおすすめします。お子さんがそこでイキイキと楽しく生活しているのが想像できるところを選んでみてください。また、お子さんが「ここに行きたい!」という場合もあります。

また、就学に向けていろいろと準備すると思いますが、何かに失敗してもお子さんが落ち込みすぎず、再度トライできるように声かけしてあげたらよいと思います。

——最後の質問です。障害のある子どもの強みを見つけたい場合、どうやって強みを見つけ、伸ばしていったらよいのでしょうか。

これは私の専門分野ではないので明確な回答は難しいのですが、お子さんが好きなことを追求できる環境を可能な限り整えてあげたらよいのではないでしょうか。

これまでの現場で「もしやギフテッド……?」と思う子はいましたね。でもそのお子さんに限らず、「お子さんがどんなことに強い興味を抱くのか」は、親御さんに共有するようにしています。

発達の遅れがあると、どちらかというと強い興味の反対側にある「まったく興味がないこと」や「苦手なこと」に目が行きがちかもしれません。だからこそ、興味のあることや得意なことに着目できたらいいですよね。

親は子どもの「安全基地」少しでもホッとする時間を

——MAMIさんの今後の展望をお聞かせください。

現在はいったん療育の現場を離れて、子育てサロンのボランティアや、オンラインでの療育、保護者相談などを行っています。子育てに疲れている親御さんを目にすることが多いので、まずは親御さんに笑顔になっていただけるような活動をしていきたいです。

——最後に、子どもの言語発達に悩む親御さんへ向けて、メッセージをお願いします。

お子さんはそれぞれのペースで成長しています。お子さんの力を信じてください。親御さんは一番の理解者であり、自分を尊ぶ力がついていると、とてもよい状態だと思います。

大人のメンタルがお子さんに影響することも多いので、まずは親御さんが自分自身を大事にしてください。子育てはとても大変ですが、少しでもホッとする時間を持っていただけたら嬉しいです。

MAMIさんTwitter


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