理想の美容院に出会った話
私は昔から美容院が苦手だ。
キラキラした美容師達が忙しそうに行き交う中で、席に案内されるまで待たされる間のアウェイ感が苦手だし、
手持ち無沙汰で雑誌を手に取るものの、話しかけられて雑誌に目を向ければいいのか鏡に目を向ければいいのかわからなくなる感じも苦手だ。
途中でよくわからないアシスタントさんと当たり障りのない会話をするのも無意味に感じてしまうし、とにかく居心地が悪いんだと思う。
その点、中目黒にある、完全1人体制(+犬)の美容院は居心地が良かった。が、仕上がりにあまり満足しなくて数回通って辞めてしまった。
そんなこんなで、理想の美容院に一度も出会えたことがない。
美容院に満足するには、美容師さんの腕と、価格と、美容院の雰囲気の全てが満たされないといけない。
だから、10年同じところに通っている等と言う友人たちが羨ましかった。
最近は知り合いのヘアメイクさんの自宅でカットをしてもらっていたのだが、先日Instagramの写真を見せながらこんな髪型にしたいとお願いしたら、素人の私でもおかしいと思う仕上がりになってしまった。髪は女の命。とまでは思っていないけれども、普通に悲しい。
ていうか、そもそもこのInstagramの写真の美容師さんのところに行けばいいのでは?
なぜそんな簡単なことを考えなかったんだろう。
そんな運びで、勝手にフォローしている何の接点もない美容師さんの務める美容院を予約した。
渋谷と代官山の間くらいにあるその美容院は、1960年代に建てられたという古いけど作りはしっかりしているビルの7階にあった。エレベーターには6階までしかボタンがない。このビルで合ってるのか?
とりあえず6階に行ってみる。そこからは階段で無事に7階まで行けた。
なんだか隠れ家みたいでひっそりとしていていい。
中に入って名前を言うと、こちらでお待ちくださいと、いつもの苦手なパターン。
でも今回は、本棚と壁に挟まれた空間にある椅子に通された。
目の前の本棚には、私が好きな映画のカットが表紙になっている雑誌が並ぶ。座っている椅子の横のテーブルには、面白そうな本が乱雑に重なっている。
本に興味をそそられているうちに、では席に案内しますね、とお呼びがかかった。
居心地の悪さどころか名残惜しい。
案内された席は、窓に囲まれた明るくて爽やかな場所だった。
鏡の横に置かれた観葉植物の素焼きの鉢には、馬なのかなんなのかよくわからない四足歩行の動物の絵が描かれていた。
指名していた美容師さんが登場。挨拶をしてから、なぜここにきたのかを伝えて、Instagramの写真をみせ、これにしてほしいとパーマとカットをお願いした。
今の髪型からこのスタイルを目指すのは無理だね。パーマもやめた方がいい。パーマをかけるにしても、わたしの顔に似合うのはもっとこういうスタイルだと思うよ。今日はとりあえず今できる良い髪型にしていこう。とのこと。
シャンプーは若いアシスタントの男の子が担当してくれた。家具に詳しくない私でも、これはヴィンテージだろうなとわかる素敵な椅子や、ライトや、沢山のCDが並べられた棚と、その上に置かれた可愛い花瓶に贅沢に生けられた花を眺めながらシャンプー代に座った。
シャンプーをしながら、男の子は、ここはよく晴れた日は富士山も見えるんですよと教えてくれた。
結果希望と全然違う髪型になったのだが、総じて満足した。
値段はカットで8000円。安いと思った。
空間に癒されて、カットにも満足して、とてもいい気分で代官山から渋谷に向かって歩いた。
美容院代というのには、単純な技術への対価だけではなく、空間やこの気持ちに対する支払いも入っているのだと実感した。
安かろう悪かろうは嫌だ。かといって、普通の金額でそこそこの仕上がりも嫌だ。高くてもいいから、満足して、気持ちよくお金を払いたい。払わせてもらいたい。出来ることならば、全てのものに今回の様な気持ちでお金を払いたい。
美容院に行ってこんな気持ちになったのは初めてだ。
すごくいい経験だった。自分の仕事も、お客さんにこう思ってもらえるように頑張ろう。
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