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「ピーター・ドイグ展」

「ピーター・ドイグ展」
東京国立近代美術館


ロンドンのテートモダンでピーター・ドイグの作品は何度か見たことがあったのですが、その時は大きな絵でうっとりするような色づかいやなぁぐらいの印象でしたが、日本でこれだけ大きな展覧会が開催されるということで「すごい人気アーティストやったんや…!」と初めて知った感じです。世界で今最も重要なアーティストのひとりって言われてるらしい。



ちょうどコロナで自粛が始まる直前にobちゃんの個展に伺ったのですが、草と洞窟が印象的な川辺でボートに乗ったなんとも言えない表情の女の子の絵があって、obちゃんに「これはオフィーリアからインスピレーションされてたりするん?」って聞いたら、「そういうところからも、モネやピーター・ドイグからも影響されてるよ」って話してくれて、わ!そうなんや!ってすごい納得したのと同時に同じ時代を生きてるアーティストから影響を受けているということをなんのためらいもなく話してくれたのがとても新鮮で、obちゃんをも虜にさせるピータードイグ、一体なにやつ…!と興味が湧いたのも、今回の展示を見に行きたいなと思った大きなきっかけでした。



行った感想を一言で言うと、「は?良すぎでは?」でした。


特に順路が決まってるわけではない展示空間になってて、制作年ごとに作品を順番に辿っていくというお堅い感じでもなく、なんとなく時代ごとに流れるように見れるようになってるってぐらいのゆるさ。

ふらふら見てたらいつの間にかドイグの世界に迷い込んでしまうみたいな構成で、時には桃源郷のような眩しい光を感じたり、時にはあの日の夜を思い出すようなセンチメンタルさを感じたり、時にはどこかに行った時にかいだ匂いを感じたり。
といろんな物語性を感じながら好きな順番でくるくる展示室を周っていると、地面から3cmぐらい浮いてるかのようなふわわわわ〜んとした居心地の良さを感じました。
現実と虚構の間にいるような、ドイグが描いた世界のはずなのに、自分が過去に見たような体験したことのあるような、そんな不思議な感覚になる絵たちでした。


ドイグはゴーガンやゴッホ、マティスやムンク、ブリューゲル(父)といったいろんな画家の作品の構図やモチーフをはじめ、小津安二郎の映画のワンシーンやニセコのスキー場の広告グラフィック、彼が暮らしたカナダやトリニダード・トバゴの風景など、多様なイメージや写真を組み合わせて絵画を制作されているそうで、

「あ、これはムンクの空や」とか「あ、これはマティスの色使いと構図」「なるほどこれはブリューゲル雪の効果になぞらえてるんや」という風な感じで、それを発見していくのもとてもおもしろかったし、

過去の巨匠たちが産み出した、何十年、何百年経っても廃れることのない、人々を感動させ続ける愛され続ける素晴らしい作品や美意識のイメージを縦横無尽に重ね合わせることで生まれるオリジナリティと誰の心にもスッと入り込む懐かしさと安定の美しさがあって、「これ最強の表現なのでは!!!!」と思いました。



特に、obちゃんも影響を受けたとお話してくれた「ボート」の描写ですが、ドイグは映画「13日の金曜日」のラストシーンから持ってきてるそうなのですが、最近私が新たに知ったアルノルド・ベックリンの「死の島」からもインスパイアされてるのでは?と思ったらキャプションにそう描かれてて、「なるほどやはり…!」と思ったし、ボート1つから見てる側がいろんな想像が膨らむだろうこの作戦?に唸りました。


ベックリンの「死の島」ってややこしすぎて勉強断念中のダンテの「神曲」に出てくる地獄を繋ぐカロンが漕ぐ「渡し舟」がモチーフになってて、そういう背景からドイグの絵を深読みし始めたりするのも楽しいなぁと思いました。
しかもボートが描かれた絵がいっぱいあって、どれも雰囲気が違うから何通りものストーリーが浮かんでくるのがまたすごい。無限想像。


ドイグは「何が描かれているか鑑賞者が全て知る必要はない」みたいなことおっしゃってて、「答え」みたいなものに辿り着かずに頭の中でいろんなイメージがふわふわ浮遊してること自体がおもしろいんやなぁという初めての体験でした。


イメージの重なりによるおもしろさはもちろん、初期の作品は色づかいがめちゃくちゃ素敵でした。どうしたらあんな夢幻みたいな色になるんやろ。星とか月とか水とか氷とか雪とか木とかオーロラとか自然の描写が圧倒的にロマンチックやし、反対に燃えたぎるような色使いもあり、感情揺さぶられっぱなしでした。


また、最近の作品は割とサラッとしたタッチでゴーガンとかマティスぽいなぁと思う作品もありましたが、初期のマチエールはとても複雑で、モネのようなタッチでもないし、ガサガサした感じや油と水が分離したような感じや絵具をボタっと固まりで乗せたような表現もすごく魅力的で、完全に虜。


あとドイグのいいところは、映画愛が爆発しているということ!!彼は「荒ぶる映画愛」!!映画が好きすぎて、毎週決まった曜日に自分のアトリエでスタジオフィルムクラブという上映会を開いてるそうで、毎回そのためのポスターも描かれてて、展示の最後の部屋でそのポスターが見れるのですが、どれもユニークで映画めちゃくちゃ好きなんやろうな!!っていうのがすごい伝わってきて最高でした。「好き」から始まる動力って間違いない。オタク気質なんやろうな。私と同じ匂いがする(おこがましい)みんなも荒ぶっていこうな(急)


というわけで、ドイグのこと最初は全然知りませんでしたが、大好きになりました。

現代アートって大型のインスタレーションとか抽象表現のようなイメージがありますが、ドイグのように過去の「絵画」をリスペクトし、新たな魅力を更新しているアーティストがいるということにとっても嬉しくなったし、すごく理想的だなとも感じたし、私もこういうものづくりをしていきたいなと思いました。

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