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映画感想#33 「嗤う分身」(2013年)

原題 The Double
監督 リチャード・アイオアディ
脚本 リチャード・アイオアディ、アビ・コリン
出演 ジェシー・アイゼンバーグ、ミア・ワシコウスカ、ウォーレス・ショーン、ノア・テイラー、ヤスミン・ペイジ 他
2013年 イギリス 93分



奇妙な世界に没入する楽しさを味わう

まずキャストが素晴らしい。
冴えない主人公サイモン、そして彼のドッペルゲンガーであるジェームズ。ジェシー・アイゼンバーグはこの2役を見事に演じ分けていました。内気なサイモンと狡猾なジェームズ。見た目は同じなのに、なぜか全くの別人に見えてしまう。目線、仕草、声のトーン、そういう些細な違いで演じ分けていたのでしょう。服装や髪型で違いを出しているわけではなかったので。
ちょっとオタク感のある彼が演じているのもポイントだと思います。

こちらは"陰キャ"のサイモン

そしてサイモンが恋をする女性ハナには、ミア・ワシコウスカ。孤独さを醸し出しつつも、周囲を魅了するオーラを放っていました。
全体的に暗いシーンが多かったのですが(夜とか会社の薄暗い感じとか)、ハナは白い服を着ていることが多い。暗がりに浮かぶハナは、サイモンにとって特別な存在であることが、わかりやすく示されていると思います。

白いワンピースのハナ

超管理社会、"上司は絶対"の厳しい上下関係・・・異世界ながらもそこには現実的な何かがあります。サイモンが勤める会社の「大佐」という存在。それは明らかに組織のトップを指すのですが、「大佐」と呼ばれていることすら皮肉に思えます。

そして、もちろんラブストーリーの要素も色濃くあります。サイモンが自分自身を取り戻そうとするきっかけは、ハナの存在あってのこと。
私が一番好きなシーンは、ハナが自殺未遂をした後にサイモンのノートを見て泣くところでした。そのノートには、ハナが捨てた絵の切れ端が貼り付けられているのです。サイモンの優しさ、どうか伝わってくれ…!

ロイ・アンダーソンやアキ・カウリスマキを意識したという監督の思惑通り、無表情でシュールな世界観が面白い。
全てを理解しようとするより、奇妙な世界に入り込むこと自体が、この映画の楽しみ方かもしれません。


「特殊な存在になりたい」という人間の欲求

サイモンは、自分のことを「まるでピノキオみたいだ」と表現しています。自分が自分の外にいるみたいで、何も出来なくて辛いんだ、と。

そして映画最後のサイモンのセリフ、「特殊な存在になりたい」
これは、人間の究極の望みなのかもしれません。周りに認識されることで、自分を自分たらしめているというか。
会社のIDカードを無くしたサイモンは、会社から存在を認められず、部外者と認定されてしまいます。自分はここに存在しているのに、自分というデータがなければ存在すらも認めてもらえない。認識されないということは、存在しないも同然。
そんな恐怖に追い詰められたサイモンは、最後には分身ジェームズと対峙することを決意するのです。

「自分」ってなんて不思議な存在なんでしょう。
ということで、『じぶん・この不思議な存在』(鷲田清一)を改めて読みたくなりました。

☆鑑賞日 2014年12月3日


投稿に際しての余談①〜ミア・ワシコウスカ〜

ハナを演じるミア・ワシコウスカ。好きな女優さんの一人です。
この映画のハナの髪型がかわいくて大好き。「アリス・イン・ワンダーランド」(2010年/ティム・バートン)や「ジェーン・エア」(2011年/キャリー・ジョージ・フクナガ)もかわいかったけど、本作の孤独なハナという役どころが好きです。いつも笑顔のキラキラ女の子ってタイプじゃなくて、ちょっと不機嫌で不安そうにしている感じ。近くにいたら、ちょっと気になっちゃいませんか?なんてね。

投稿に際しての余談②〜原作とタイトル〜

原作はドストエフスキーの『分身(二重人格)』。読んだことはないけど気になります。(でもドストエフスキーというだけで、一生読まない自信あり。)
原題はThe Double=分身、ですかね。邦題は「嗤う分身」と、ちょっとニヒルな印象です。「嗤う」は、人を見下し嘲る、という意味のようで、ジェームズから見たサイモンといった感じでしょうか。映画の印象がダイレクトに伝わるタイトルですね。文字デザインもニヤッとしていて、面白い。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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