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映画感想#10 「ムーンライズ・キングダム」(2012年)

原題 Moonrise Kingdom
監督・脚本 ウェス・アンダーソン
脚本 ロマン・コッポラ
出演 ジャレッド・ギルマン、カーラ・ヘイワード、ブルース・ウィリス、エドワード・ノートン、ビル・マーレイ、フランシス・マクドーマンド、ティルダ・スウィントン、ジェイソン・シュワルツマン 他
2012年 94分 アメリカ


まず、衣装からセットから背景・小物が可愛い。ボーイスカウトの服も、スージーの家も、島の警察も。あと犬のスヌーピーが超絶可愛い。

カーキスカウトの番犬、スヌーピー

そして最初のシーン、シルバニアファミリーみたいな家の内部のカット。
・・・と、とにかく可愛い世界観なのです。
しかし、この可愛さの陰に隠れた少しダークな要素もウェス・アンダーソン作品の魅力かもしれません。

このお話の主人公、サムとスージーは似たもの同士。自分は他人とは何かが違うと思っていて、それゆえに他人と分かりあうことができず、周囲と馴染めず、ついつい攻撃的になってしまう。
自分の世界を持っていることは大切なことなのに。
「他のみんなと違う」ということが、子供の頃はどうしても目立ってしまうものですよね。

スージーは特に攻撃的な一面があり、駆け落ちを追ってきたボーイスカウトの子供をハサミで刺してしまいます。その反動で、子供たちが持っていた矢が犬のスヌーピーに刺さってしまい、死んでしまう…
この辺りがちょっとダークな印象を受けました。

しかし、一連の駆け落ち事件を通して、サムはシャープ警官のもとで島に残り、スージーの近くで暮らせることになりました。
結末としては、ハッピーエンド。でも、何だかほろ苦さを感じました。


<大人が思うこと、子供が思うことのズレについて>

サムとスージーはこの先どうなっていくのかな。まだ12歳だものね。
島警察のシャープ警官(ブルース・ウィリス!)は、駆け落ちをしたサムに対して、
「なぜ急ぐ?まだ君たちの直前には人生が広がっているじゃないか」
と投げかけます。
大人は長い人生を生きてきたので、子供達の将来の長さを羨ましく思い、また、自分とその子供の年齢を無意識的に比較し、「先は長い」と思ってしまう。

哀愁漂うシャープ警官の名台詞

一方、スージーは駆け落ち現場を捕獲され、家に連れ戻されて母と会話をする。
「彼と恋をしているの。なぜ一緒にいてはいけないの?」とスージー。

子供はこう思うのだろう。「こんなに単純なことなのに何故できないのか?」
家出したり、人に危害を加えることは良くない事だけれど、でも求めていることはサムと一緒にいることだけ。先のことはどうなるかわからない。今、一緒にいたいのに、なぜそうすることができないのか、と。

大人は、自分には無くなってしまった、若さゆえの純粋な気持ちに嫉妬して、頭ごなしに反対してしまう。でも、最後には2人の気持ちを尊重して、駆け落ち事件は解決するのでした。

今しかないって時に、何でも挑戦しておくのが良いのだと思います。後先考えるのはその後でも間に合う。
サムとスージーは、結果として自分たちの求めるものが手に入ったわけだし。
誰かに邪魔されたり思い通りにいかないこともある。でも、自分がこうしたい、こうなりたい、という理想を持つことは、人生を豊かにしてくれるのではないでしょうか。
そういう意味で、サムとスージーを尊敬したいと思います。

☆鑑賞日 2013年3月18日

投稿に際しての余談

・今年の5月にAWA(=Accidentaly Wes Anderson)展に行ってきました。
ウェス・アンダーソンの映画っぽい風景の写真展で、可愛らしい色合いの建物や左右対称的な風景が並んでいました。
「ウェス映画らしい風景」と言われるくらいの、強い個性を持った監督なんだな、と改めて実感しました。

グッズで売ってたAWAシールたち


ウェス・アンダーソンを知ったのは、映画よりも監督本人のファッションが素敵だなと思ったのが最初でした。コーデュロイのスーツにスエードのモカシンというスタイルが彼の定番と知り(おそらく雑誌BRUTUSにて)、当時高校生だった私は、こういう個性的なスタイルへの憧れを少しだけ持つようになりました。
2011年に「ファンタスティック Mr.Fox」が上映され、すごく見たかったのに、田舎に住んでたのでリアルタイムでは見れませんでした。ウェスの存在は、映画好きへの第一歩だったように思います。

憧れのウェス・アンダーソンのファッション

・大人になったサムとスージー、「パターソン」(2017年/ジム・ジャームッシュ)に出演しています。予告でも全然映っておらず、本編でも詳しい説明はなく、「知っている人は知っているよね、この2人」という雰囲気でした。ジャームッシュ監督、粋ですね。

・本作品でしばしば現れる、スージーが双眼鏡を覗くシーン。印象的です。
インドの映画監督サタジット・レイの作品で「チャルラータ」(1964年/同監督)にも、双眼鏡を覗くシーンがありまして、なにかインスピレーションを受けているのか?ただの偶然なのか?ちょっとした繋がりを感じました。

「チャルラータ」にて 双眼鏡のシーン


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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