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映画感想#34 「浮き雲」(1996年)

原題 Kauas pilvet karkaavat
英題 Drifting Clouds
監督・脚本 アキ・カウリスマキ
出演 カリ・ヴァーナネン、カティ・オウティネン、サカリ・クオスマネン、エリナ・サロ 他
1996年 フィンランド 96分



無表情な登場人物の表情を読む

失業した中年の夫婦が、再び職を得るまでの紆余曲折を描いています。

特徴は2人のなんとも無表情な会話。最初は、「仲が悪いのか?」とも思ったけれど、決してそんなことではありませんでした。そこには言葉に出さない思いやりがあったのです。
例えば、夫ラウリが妻イロナの未払いの給料を求めて、雇い人から殴られるところ。そしてそのことを、イロナに言うこともない。あえて相手に伝えなくとも、夫婦として助け合うことが当たり前になっているという、そんな雰囲気を感じました。

色々な困難を経て、イロナの新しいレストランに最初のお客さんが入ってくれた時には、感情がものすごく伝わってきました。彼女の佇まいから、嬉しさや達成感が滲み出ていたのです。人の感情を読み取るのは、表情からだけではないんだなと思いました。
イロナとラウリは店の外に出て、2人で空を見上げる。(犬も一緒に)
そこには言葉にできない安心感と、夫婦愛がありました。

時系列もそのままに、起承転結のはっきりしたわかりやすい話で、凝った演出もありません。だからこそ、イロナとラウリの2人の関係性や、それぞれの抱く思いが浮き彫りになっています。
見ている間は、難しいことを考えず、ただ2人の行く末を見守り応援したくなるような映画でした。


「浮き雲」というタイトル

原題Kauas pilvet karkaavatを直訳すると、「遠くに雲が逃げる」という意味になるようです。
遠くへ流れていく雲のように、人生もどうにかこうにか流れていく。そんな雲の流れる空を、エンディングでは2人と1匹で見上げています。
希望を持って生きていけば何とかどうにかなる、というメッセージだと思っています。

エンディングで流れる曲がまた良い。フィンランド語なのですが、ありがたいことにYouTubeで歌詞の英訳がありました。
意味はこんな感じでしょうか。

I didn't know what I'd found when I asked you for a dance
They played a song with a beat
You said: come closer
Everything hid away when the moon got lost in the clouds
and the park got dark and there's always a reason why
The band takes a break and I ask to walk you home
You just laugh in silence
others turn to watch
The night's not over
the record plays forever
all I can do is wait
But the clouds are drifting far away
You try to reach them in vain
the clouds are drifting far away and so am I…

君をダンスに誘ったとき、僕は何を感じていたのだろう
ビートとともに音楽が聞こえてくる
君は「近くに来て」と言った
月が雲に消えた時、全てのことは隠れてしまった
公園が暗くなったけど、そこにはいつも理由があるんだ
バンドが休憩に入ったので、君を家まで送ろうと言った
君はただ静かに笑っている
他の人たちが振り向いて見ている
夜はまだ終わったわけじゃない
レコードは永遠にかかり続ける
僕にできるのは待つことばかり
でも雲は遠くへ流れていってしまう
君は無駄だとわかっていて、近づこうとする
雲は遠くへ流れていく、そして僕もまた・・・

以下の動画より歌詞英訳引用(翻訳部分は自前です)

空に浮かんでいる雲のように、人生も流れながら進んでいくんだなあと。
おおらかに生きていきたいものです。

☆観賞日 2014年12月14日


投稿に際しての余談①〜日芸の企画上映にて〜

毎年、日本大学芸術学部の3年生が実施している企画上映があるのですが、この時初めて知り、見に行きました。
というのも、当時自分も同じ大学3年生だったこと、またテーマが「働くことを考える」という、自分にとっても切迫したものだったからです。就活を控えた大学3年生という時期。何か就職というものに一歩でも近づきたくて、目に止まったのだと思います。
上映全15作品のうち、この「浮き雲」しか見ることができませんでしたが、ここでアキ・カウリスマキとこの作品に出会えたことを感謝しています。
もう少しで始まる社会人生活に不安を感じながらも、「イロナとラウリみたいに、何とかなるかな〜」なんて思いながら、ユーロスペースから渋谷駅まで、寒い冬の帰り道を歩いたことを覚えています。

今年2023年のテーマは「移民とわたしたち」。(12/2~8@ユーロスペース)
楽しみですね。時間を作って見に行きたいと思います。


投稿に際しての余談②〜アキ・カウリスマキという存在〜

アキ・カウリスマキは、一番好きな映画監督と言っても過言ではないくらい、私にとってはとても大切な存在です。
単調で静かで無表情なので、眠くなるという人もいるみたいですね。私は派手な演出やアクションシーンの連続よりは(インド映画は好きです)、カウリスマキの哀愁が性に合う気がしています。

あともう少しで新作「枯れ葉」が上映スタートとなりますね。監督引退を表明されてから、また新作が見れる日が来るとは…(涙)
身を清め、心して見に行きます!


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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