あなたは、どっち派?
少し前から職場での専らの話題。
それは、バナナと柿。
患者さんたちや師長までをも巻き込む大変な事態だ。笑
バナナor柿ではない。
バナナvs柿でもない。
青いほうが好きか、
熟れたほうが好きか。
…これだ。
事の発端は、昼食の配膳に丸々1本の青々とした立派なバナナが乗ってきたこと。夜勤の職員用の夕食のお膳でたまに出るバナナは、いつもシュガースポットだらけのちょっとくたびれたバナナだからか、なおのことその日のバナナはおもわず「食べたい!」と思ってしまうほどの、曾てみたことがないくらい大きくてフレッシュなバナナだった。
元デパ地下のフルーツギフト担当責任であった身としては、産地と品種(品名)が大いに気になるところでしたが。
私が配膳した大部屋の女性患者さんが「私、青いの嫌いなのよね…」と仰ったものだから、さぁ大変!!
隣のお部屋の患者さんに配膳していた同僚が「え!まって、それ分かりますー!!」とカーテン越しに元気に参加してきた。
さすがにバナナの熟れ具合で栄養課には電話できないし、数ある注意・禁忌項目にもバナナの熟れ具合の指定などは一切無い。
当たり前のことだけれど、
誰かにとっての“美味しそう”は、
誰かにとっての“美味しそうではない”で、むしろ“好きじゃない”ということに改めて気付かされる。
彼女たちは、なにをか言わんや「熟れた方が好き派」ということになる。
同僚が、自分が配膳した患者さんにもどっちが好きかを尋ねはじめた。
「ねっとりもったりしたバナナ、美味しいですよね〜♪」
「シュガスポ出てないバナナはバナナじゃない」
に、そのお部屋のみんなが共感していた。
私は青くて硬いバナナが好きなので、みんなの共感を邪魔しないように口を噤んでいた。
(心の声)
うんうん、分かります!
ねっとりもったりしたバナナはとっても甘いし香りも成熟、お菓子を焼く時なんかにはわざわざそちらを買いますし…!
と、私は静かに頷いていた。
すると急に、
「でもね!今お隣に配膳している子は青いのが好きなんですって〜!(大声)」
「……えっ!笑」
突然の巻き込み事故に遭う。
心の声じゃなくなり、ついうっかり反応してしまった。
勝手に職員の個人的嗜好を患者さんに曝され(?)、逆個人情報漏洩ではないか!なぜか売られた私。笑
目の前の患者さんも、彼女の入ったお部屋の患者さんもカーテン越しに大笑い。
これが、小さな小さな派閥ができあがった瞬間であった。
今、母と一緒にお買い物に行くと、バナナひとつにしても買いたい物の好みが分かれる。
私は根っからの青い派だ。バナナに至っては皮もうまく剥けないくらい青臭くて硬いほうが好き。母は真逆だ。
でも母は「今日は青くて良いバナナ見つけたよ」と言って、私がまだ実家にいた学生の頃は、私の好みに合わせてそちらをずっと買ってきてくれていた。だからぜんぜん気づかなかった。
思えば、好みがこのように被らないので、食べ物でケンカしたり取り合ったりした経験など家族間で一度もない。
母が『だいたい、熟したバナナが好きな人は柿も熟している方が好きで、青いバナナが好きな人は、柿も硬い方が好きだ』と話していたことを思い出す。
私は、その患者さんに恐る恐る聞いてみた。
「では、柿はどうですか…?」
「スプーンで掬わないと食べられないくらい、熟したのが好き!」
おおお!!この理論は合っていた。
みんなで納得。
私はバナナも柿も歯ごたえがある方が好きだ。そしておもしろいことに、青いのが好き派は、柿の種の周りのコリコリとした歯ごたえのある部分が好きだということも共通。
「そんなに青いのがお好きなのね!じゃあこれ食べていいわよ」
「こっちのもどうぞ〜」
さすがに患者さんに配膳されたものに手を付けるわけにはいかないので、
「残念〜!お昼ごはん食べ終わったばっかりでお腹いっぱいでして。栄養課から買い取り可能かな…?片っ端からみんなの好みを確認して、青いバナナ回収してまわろうかな。ロッカーからエコバッグ持ってくるのでちょっと待っててください!(冗談)」
と、咄嗟に返した。
みんなで再び大笑い。
「どっち派が多いんだろうね」
たしかに。
それから、下膳に入るお部屋ごとに患者さんにどっち派かを聞いてまわった。
バナナを残していた方にはもれなく「青いのはお嫌いですか?」と聞く同僚。“お腹いっぱいで食べられなかった”っていうことだってあるでしょうに、同僚ったら…笑
じわじわと青いのが好き派も増えはじめて嬉しくなった。
それに、青いバナナを召し上がっていたからといって、決して青い派とは限らない。
これが結構楽しくて、深かった。
大部屋から個室まで、3B病棟の端から端まで下膳ついでにアンケート。食形態もそれぞれに違うので、この好みとの関係性がなかなかおもしろくなってきた。お陰でみんなのバナナの好みがインプットされ、次にお部屋を訪れた際や移動時、食介の時にはそのことについて触れることができ、患者さんの笑顔や好みや会話を引き出すきっかけにもなった。
認知症のある患者さんには“閉ざされた質問”を用いてどっち派か聞きだす顛末。
そして熟れた派の多いこと…!
年配の方はほとんど熟れた派だった。
私にとって世間で言う、所謂「シュガースポットがでたら食べ頃サイン」ではもう遅い。その頃には食べ頃が遠に過ぎてしまっている。
“食べ頃”は“そのものをいちばん美味しく食べられる頃合い”なのだが、好みとは当然べつものだ。
糖度や種無しにばかりに注目がゆき重宝される最近の風潮にも、私は疑問を呈したい。果物の美味しさを、糖度や種無しだけで測ってほしくない。もちろん、種をうまく出せないお子様やお歳を召した方への優しさからの開発目的だったと言うなら手放しで応援しよう。私は、すっぱくたって種があったって、それがフルーツの本来の良いところでもあり魅力的な姿であり、楽しい作業や楽しみな部分だとさえ思っている。その作業を子供や高齢の方とも一緒にすることにだって意味があると思う。何から何まで甘さを求め、なんでも「面倒だから」とか「簡単」で済まされてしまってはつまらない世の中だ。私の果物への愛はとても深い。
どこか海外や遠くを訪れた際には、その土地に着いたら真っ先に地元の八百屋さん(なければスーパー)へ直行して、現地ならではの野菜やその土地で採れた旬の果物をチェックするくらい、果物が大好きです。
バナナと柿の好みが同じというなら、私のもうひとつの推測と理論から、洋梨も同じになる。
私は熟れたトロトロの洋梨より、青臭さの残るコリコリでザクザク食感の洋梨が大好きだ。
これ、どうでしょう?
けっこう当たっている気がします。
病棟ではしばらくこの話題でもちきりになりました。看護師はもちろんのこと、そこに居合わせたリハさんやSTさんやOTさんにまで振られるバナナと柿の質問。問答無用の巻き込み型だ。笑
患者さんを検査にご案内した際の、案内先の技師さんにまで質問は及ぶ。その結果も人伝に届いた。
なんという情報網、
なんというコミュ高。
そして、なんて平和なんだ。
急性期病棟の日々の秒刻みの忙殺の業務の中、話題がバナナというだけで一気に和む。
バナナの力はすごい!
バナナは万人に愛されているんだなぁ。
派閥は和気藹々と構築され続け、その主軸は職員の青い派と熟れた派によるところとなったのだが。
青い派は今も熟れた派に多少押され気味だ。
「ところで、バナナは青い方がお好みですか?それとも熟れた方がお好みですか?」
新たな入院患者さんに薬剤・食物アレルギー等の確認と共に聞く、スタッフ大注目の定番の質問になった。
私が今までに食べてきた様々な種類のバナナの中でいちばん美味しかったバナナはというと、断トツで台湾バナナです。そして、そこでもやっぱり外せないのは適宜な「青さ」。
「さっきそこの裏山で採ってきたものだよ」と出された青々としたバナナが超絶美味しくて感激し、食べる手が一向に止まらず自分でも何本食べたかわからないくらい食べたことがあった。
現地の方々に「こんなにもバナナを幸せそうに食べる人を初めて見た。嬉しい。いっぱい食べなさい」と口々に言われた。笑われなくてよかった。
おすすめの美味しいバナナをご紹介しようと思ったのに、なんだかバナナをもりもり食べた私の恥ずかしいお話になってしまい、まとまりも無くなってきたので、このお話を終わりにしたいと思います!笑
どちらが良いとか悪いとかでは決してなく、その人に興味を持ち続け、好みを知るための習慣と手段のひとつ。派閥というのはもちろん建前で、派閥という仮の形を借りて共感・非共感部分を知ってみんなで楽しむことが大事な目的です。
この問題だけでなく、好き嫌いの形が勝ち負けや優劣に変わっていってしまわないようにだけは気をつけたい。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
それでは読んでくださった皆様にも伺いたいと思います!
あなたは、どっち派?
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