米津玄師のLemonを聴くと少女漫画のヒロインになってしまう

人間、誰だって聞かれたら困ることのひとつやふたつは抱えて生きている。もちろん、僕も聞かれたくないことがある。

「米津玄師のこと、好きですか?」

いま、こんな質問をぶつけられると非常に困る。視線をそらして顔を赤らめた挙句、「そんなの、わ、わっかんないよ…」と答えるだろう。思春期真っ盛りな少女になってしまう。「それめちゃくちゃ好きなやつじゃん」と思うだろう。でも、僕は本当にわからないのだ。好きなのか、きらいなのか。そのどっちかじゃなくちゃ、いけないの?だって、そんなの。わたしには、わかんないよ…。

さてどうしてこんな事態に陥ってしまったのかというと、ラジオのせいである。職場で流れるラジオ。ラジオというものは暴力的だ、聴きたくない音楽さえ無理やり耳にぶち込んでくる。とはいえ、別に米津玄師を「聴きたくない」と思っていた訳ではない。正直、どうでもよかった。興味はないけど、ダサいとも思ったことはなかった。

ただ、僕はもうそれはそれはひねくれておりますので、売れている音楽、というか若い音楽があまり好きではなかった。もっと言うと、音楽そのものが良くても、その新規ファンが苦手だった。売れているものに飛びついてる感じがして、軽薄そうに見えるからだ。自分がミーハーだから同族嫌悪なのだけれども。

それで、米津玄師のこともなんとなく苦手だった。進んで聴くなんてことはしなかった。しかし、もうこの2ヶ月3ヶ月、ラジオからは米津玄師の「Lemon」がひっきりなしに流れた。たしかに、いわゆるイケボってやつ?声がかっこいいのは、認める。メロディーも聴きやすいし、レモンを「酸っぱい」じゃなくて「苦い」で切り取るのは良いなと思った。アイツの書く詞は、好きだと思った。

でもやっぱり、夢中にはなれない。みんながアイツのことを好きだと思う理由はわかんない。わたし、変わってるのかな?でも、みんなに騒がれて、スカしてるアイツは、なんだか気に食わなかった。ほら、またサビで裏声使ってる。「あなハァーたとともーーに」だって。気取っちゃってさ、かっこわる。

アイツ、いつもそうじゃん。なんか、一生懸命やったことありません、だいたいセンスでやってきました、みたいな顔してる。わたしなんか、いつも何やったってドジだし、上手くいかないし、大好きだった先輩にもフラれちゃったし。えへへ、一生懸命やってるんだけどなぁ。

だから、アイツのことは嫌い。いつも力抜いて、それでも人を惹きつけてさ、さぞかし気分、良いでしょうね。それなのに、わたしのことわかってるみたいに、レモンの「苦さ」を歌にしてさ。それだけなら別に、良いけど。痛いほど、刺さっちゃうんだもん、胸に。ホントに、大嫌い。

わかってる。悔しいけど、わたし、アイツに嫉妬してるだけなんだ。

また、歓声が上がってる。そっか、ラスサビに入るんだ。また、格好つけて歌ってる。裏声で、すっと力抜いて歌うんでしょう。わたしのこと、笑うみたいにさ、綺麗な歌声で、傷つけてよ。

(笑う?お前のことを?)

えっ、だれ!?

(聴こえねぇのか、俺の声が?)

まさか、玄師!?

(聴こえねぇんだったら、もっと大声で歌ってやるよ!)

うそ、なんで?

(がんばってるお前に、いつも一生懸命なお前に、レモンの苦さを知るお前に!!届くように!!!)

(歌ってやるよ!声張り上げて、一生懸命、歌い上げてやるよ!俺は、いつだって!!)

「あなぁああああああタとトモーーーニッ!!胸に残りはなぁああああレナーい苦いレ!モーンのニーオイ!雨が降り止むまでは帰ーれなーーイーー!」

そっか、玄師は、わたしのこと、見ててくれてたんだね。ずっと、見ててくれてたんだ。ごめんね、わたし、素直になれなくて。今なら、レモンも甘酸っぱく、感じるかもしんない。切り分けたレモンの、その片方のように。あなたがわたしのことを光と言うのなら、あなたもわたしの光だったんだよ……。




Lemonを繰り返し聴くうちに、1サビの「あなたとともに」は裏声で歌うのにラスサビの「あなたとともに」は叫ぶように地声で歌うのがカッコよいことに気づいてしまい、「意識してなかったのに、いつのまにかアイツの存在がおっきくなってる」という、少女漫画の主人公しか抱いてはいけない感情が芽生えた26歳男性がお送りしました。ありがとうございました。本当にすみませんでした。

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