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“孤島”の沼へいらっしゃい。推しミステリ小説3冊

山荘か孤島かと言われたら、わたしは断然後者が好きだ。最近読んだ東野圭吾の「仮面山荘殺人事件」も年間マイベスト入りしそうなほどの面白さだったが、どっちか選べと言われたら、やっぱり孤島がいい。

海のある風景が好きというのもある。そして、日常からの“断絶感”。山荘だって犯人が橋を落としたり道を塞いだり、嵐がきたりで現実から切り離されるけど、物理的にも精神的にも圧倒的な海に囲まれた非日常感が、もうドロドロに好きでたまらない。

孤島ミステリの絶対王者、アガサ・クリスティーの「そして誰もいなくなった」にはじまり、江戸川乱歩の「孤島の鬼」、横溝正史の「獄門島」、綾辻行人の「十角館の殺人」、有栖川有栖の「孤島パズル」。有名どころは一通り読んで、孤島への気持ちも一旦は落ち着くかと思った。

が、沼はまだまだ深かった

「ゲストリスト」ルーシー・フォーリー

超有名カップルの結婚パーティを孤島で開催。式が近づくにつれ、徐々に明るみになるイヤ~な人間関係。クズな本性。そしてやってくる、嵐。

誰もが羨む超豪華なパーティを孤島で! まさに贅沢に非日常感を味わい尽くす最ッ高のシチュエーション。あらすじを読んだ時点で「そうそう! こんな孤島ものが読んでみたかったの」と。そしてページの先に待つのは、最初の期待を裏切らない面白さ。

この作品は、時系列がコロコロと入れ替わる構成で、最後の最後でようやく「誰が、なぜ、殺されたのか?」が畳み掛けるように明かされる。死体ありきで物語が進んでいくわけじゃないから、王道の本格ミステリを期待すると「何か思ってたのと違う…」となるかも。

けれど、孤島という非日常感を味わい尽くす贅沢な1冊であることは間違いない。「おいおい、頼むから、殺されたのが○○であってくれるなよ…」と、つい感情移入してしまうキャラクター性の魅力も良き。

「黒祠の島」小野不由美

人探しに“邪教”が残る島にやってきた主人公。島の住民はみんなよそよそしくて、嘘をついているのは明らか。「絶対に何かある」と確信ばかりが強まっていくなか、惨たらしく晒された女の死体がーー。

「あれ? 私間違ってホラー小説とっちゃった?」ってくらい夜ひとりで読むのが怖かった1冊。孤島ものっていうとその性質上“閉じ込められる”面白さがあるわけだけど、本作は島としての閉鎖感が際立ち、住民がどうにか主人公を“島から追い出そう”とする展開が新鮮だった。

とにかく島の雰囲気が不気味に描写されていて、「そんな粘らんで、はよ逃げようよ主人公…」と思うんだけど、やっぱり“何かある”んだよね。探し人はたしかにここで消息を絶っている。

「ゲストリスト」が孤島の表の顔としたら、「黒祠の島」は孤島の裏の顔。日常から切り離される解放感と、切り離された空間ゆえの閉塞感。息が詰まるような物語だけど、こちらの孤島も、捨てがたい。

「乱鴉の島」有栖川有栖

字面から不穏さ漂う「黒祠の島」もそうだけど、まずタイトルからして期待が持てる「乱鴉(らんあ)の島」! エドガー・アラン・ポーの詩「大鴉」が重要なモチーフになっていて、カラス飛び交う孤島が舞台だ。

その島には高名な詩人の老人の家があり、そこに集う人々はいわくありげ。あきらかに殺人の死体が転がるが、迎えの船がくるまでは外界との連絡が一切とれない状況でーー。

臨床犯罪学者の火村を探偵とする人気シリーズの一編。もちろん、この作品だけでも十分楽しめる。不穏なモチーフとリンクする妖しげな人間ドラマ、そういう本を読んでいるから当たり前なのだけど、事件発覚前の“死体発見までのカウントダウン”とも言うべき不気味な気配がたまらない。

“孤島”というワードが醸し出す不気味さを、ドラマや事件にも見事に詰め込んだ贅沢ミステリー。詩人の家がぽつねんとあって、鴉が飛び交う孤島なんて、不穏さの極みじゃないか。こんな面白い孤島もの、ケシテモウナイ!(言ってみたかった)

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