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The Art of Omakase:120年にわたるアメリカでの寿司の遷移


Omakase(おまかせ)は、emoji(絵文字)やIkigai(生きがい)のように世界で使われる日本語の一つです。アメリカ版「食べログ」ともいわれるグルメサイト「yelp」には、ニューヨーク市だけで約200件ものOmakaseレストランが登録されています。

アメリカ国内における寿司の歴史は、1900年代初頭まで遡ります。Megan Howord著「Sushi Cookbook」によると、1904年のLos Angeles Herald紙には、すでに寿司がパーティー等で出される「流行りの料理」と紹介されています。第二次世界大戦の排日運動を経て、戦後まもない1940年代末には鉄火巻きや稲荷ずしなどを出すカジュアルな店が現れ、1960年代半ば、ロサンゼルスにウニやマグロなど初の本格的な握り寿司を提供する「Kawafuku」が開店しました。その後まもなく、カリフォルニアロール発祥の地といわれる「Tokyo Kaikan」が開店し、海苔を内側に隠した視覚的にも華やかなオリジナル寿司が人気を博します。アメリカ人も受け入れやすいロール寿司の登場、そして日本の経済成長に伴う日本人ビジネスマンや移民の増加により、全国で瞬く間に寿司屋や日本料理店が増えていきました。

ニューヨークでは、1995年に「Kurumazushi」(1977年開店)のOmakaseが当時のNew York Times紙の批評家Ruth Reichlから三ッ星のレビューを獲得。また、1999年には「Sushi Yasuda」が開店し、寿司職人がその時々の最高の食材や客の反応をみながらサーブするOkamaseスタイルの店が少しずつ増えていきますが、日本人や寿司文化に精通したごく一部の人々のためのものでした。

その中で、2011年に発表された、銀座の老舗寿司店「すきやばし次郎」を舞台にしたドキュメンタリー映画「二郎は鮨の夢を見る (Jiro Dreams of Sushi)」が、アメリカで大きな話題を呼びます。翌年にはNetflixで配信され、江戸前寿司の伝統と職人の技を世界の多くの人々が知るきっかけとなりました。そして、2013年、二郎の弟子であり映画にも出演した中澤大祐氏が、おまかせにぎりに特化した「Sushi Nakazawa」をニューヨークのグリニッジビレッジにオープン。本物の江戸前寿司と、その洗練されたレストラン体験を求め、映画のファンだけでなく多くの食通が足を運ぶようになりました。

2010年代後半には、都市部を中心にOkamaseがレストランのサービススタイルとして確立され、今ではより手頃な価格設定のOmakase寿司店や、日本料理に限らず韓国料理やインド料理のOmakaseなど、様々なバリエーションが生まれています。日本生まれの製品やサービスだけでなく、「おまかせ」のように日本で育まれた哲学や文化が海外で独自の進化を遂げているのは、非常に興味深い現象です。


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