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銀座の洋画商で働きはじめる

京都芸術大学の通信で芸術学を学びながら、私はひょんなきっかけで銀座にあるギャラリーヤマネという洋画商に務めることになりました。いわゆる敷居が高い画廊です。

敷居が高いのにもわけがある

画廊(ギャラリー)には、プライマリー(一次流通を担う)と、セカンダリー(二次流通を担う)の2種があることはご存知ですか? 本屋さんで例えると、新刊本を扱う書店か、古書を扱う古書店かという感じでしょうか。

私が務めたのは銀座にある主に洋画を扱うセカンダリー画廊です。これも本屋さんに例えると、神保町界隈にあるような、希少で高価な古書を独自ルートで仕入れて贔屓筋に販売している、洋書専門古書店のような感じでしょうか? 逆にわかりづらいですかね。

画廊での取り扱い作品は、一千万円程度であればまだリーズナブルに思えるほど、高額品揃いでした。よくそんな画廊にぽんっと在籍できたなと思います。

そして、新米の重要ミッションは来客と電話対応でした。

当時、店舗兼事務所は銀座4丁目(といっても築地よりだったので、東銀座が最寄り、隣は歌舞伎座でした)にありました。路面店ではなく、エレベーターを上がった2階です。

当然、普通のお客様は入ってきません。ほとんどがアポイントのあるお客様です。が、おおよそのお客様は銀行の方や営業マンなど、社長と話しをしたい人ばかり。

そう、顧客には社長が出向いて、会いに行っているのです。高額品を扱っているのですから、考えてみれば当然のこと。デパート外商と同じです。

取り扱っている作品は、ふらりと立ち寄った人が買える価格でも、縁のない画廊からいきなり買おうと思えるような価格でもありません。ですから、アポなしで画廊に入ってくる人は、実質のところ、顧客候補でもなかったのです。

ただ、「絵をみてみたいな」「どんなところかな」と、特別用事があるわけではなく入店される方もいます。そんな方を邪険にしたりはしません。ただ、Bunkamuraの頃とは違って、作品をすすめることはありませんでした。

来客対応をするのは新米の私。事務所でしている作業の手を止めて、お客様がギャラリー内を見て回る時間は、じっと立って、何か声をかけられたら対応できるよう控えていました。

正直にいうと、内心、実はちょっと手持ち無沙汰でした。そんな心のうちが伝わって、来られた方が「なんとなく居心地わるい」と思ってしまうことだって、あったのかもしれません。

アート業界で働き初めてから、現在まで一貫して「画廊(ギャラリー)は敷居が高い」という都市伝説に触れてきました。様々な方が異口同音に「誰もがアートに触れられるように」といいます。けれど、いま振り返ると、この頃の私の振る舞いは、敷居の高さを強化していたと感じます。うちと外の情報差が大きいのです。

大手一流商社から美術商に転身

そんな一流画廊の経営者がどんな人か気になりませんか?

山根社長はもと商社マンで、現代彫刻センターにヘッドハンティングされて専務を務め、その後独立してギャラリーヤマネを設立しました。

「がはは」と笑う、オープンで明るい人柄で、血液型はB型。きれもので品が良く、素晴らしい経営者です。作品をみる眼力はいまでもさすがだなぁと感じるところ。贋作に騙されては商売が潰れてしまいますから、作品をみる鋭さは、学芸員や評論家ともまた一味違うところがあります。

美術商になりたての頃、社長は彫刻(たしかロダン?)を抱えて、マンションの呼び鈴を押して訪問営業をしていたと話してくれたことがありました。もともと優秀な方なのに、現場での努力の量も半端なかったというエピソードです。「どうすれば作品が売れるのか」を、本当に日夜ずっと考えつづけていたそうです。

ayatsumugiをはじめてみて、その話の凄まじさを感じます。

社長はいまも現役で、挨拶にお伺いしたら惜しげなくアドバイスをくださいました。30分も話を聞いたら質問が出て来ないくらい、一言ひとことが重いこと。美術商を極めると、こんな面白い大人になれるのだなと思わせてくれる方です。


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