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風邪っぴきの鍋焼きうどん

もう退職したが、私の母は養護教諭をしていた。俗にいう「保健室の先生」である。(「保健室のおばさん」という方がしっくりくるのだが、世の中の養護教諭の方々に敬意をこめて。)

 この事実を話すと友人はなぜか、「いいなー。ケガしたときとか風邪ひいたときに優しく看病してくれるんでしょ?」と言うのである。(同じく養護教諭や看護師を親にもつ方がいたら、どうだったかぜひ知りたい。) 

これはとんでもない誤解である。むしろ、風邪をひくたび怒られた。 

 幸い幼少期に大きいケガをしたことがないのでケガに関しては検証はできなかったが、風邪に関してはまあひと冬に一回はひいていたような気がする。咳き込んだり鼻水が出たり、発熱といった風邪の諸症状が出ると、「お風呂上りに寒い中髪も乾かさずにいつまでも起きているから!!」

がっつり怒られた。 

 まあそう言いつつも、弱っている我が子にいつまでも説教をぶちこむほどうちの親も鬼ではない。 普段あまり食べることのない果物ゼリーも楽しみだったが、風邪っぴきの特別メニューが我が家では鍋焼きうどんだった。

おかゆのあの味気無さや食感が嫌いだった私のために、アルミの容器に入って売られているうどんをコンロにかけ、ねぎや卵を追加でトッピングする母特製のうどん。もともと大の麺好きなもんだから、そのうどんだけはどんなにひどい風邪をひいててもふーふーしながら完食していた。そして薬を飲み、布団乾燥機でほっこほこに暖められた布団にくるまって休むのだ。 


 ・・・大人になった今の自分よりいい生活してたなあ。それはともかく、普段の食事でのうどんは通常のどんぶりで出されていたため、アルミ鍋のうどんセットをスーパーで見かけるたび、幼少期の特別な風邪っぴきの記憶がよみがえる。自己管理のたまものか風邪をひくことはめったになくなり、あのアルミ鍋に入って直接コンロの直火にかけるうどんを食べる機会が減ったことを少し寂しく思う。




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