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お年玉がつらかった

新年になるとこどもが自動的にお金をもらえるという、夢のようなありがたいシステム。それがお年玉である。

こどものころの私はあまり物欲がなく、もらったお年玉と自分の通帳を母親に差し出し、「貯めておいて。」と頼むようなこどもであった。特にお金を貯めて買いたいものがあるわけでもなければ貯めたお金をおろして何かを買った記憶もない。おそらく貯金が趣味だったのかもしれない。


***


年が明けるとおばあちゃんちや親戚の家に行く機会が増える。いとこや近所の人たちも我が家にあいさつに来る。田舎の本家に住んでいたのでそのようなあいさつ付き合いはなかなか濃ゆく、お年玉をもらう機会も多かった。しかし、私は毎年お年玉を素直に喜べない理由があった。



母の目を盗んで「あやちゃん江」と書かれたかわいいぽち袋を私にこっそり差し出しながら、大人は必ずこう言った。



「お母さんには内緒だからね?」



はいキターーーーーー

これな。私の憂鬱の原因。

もしいまだにこれを実践している大人がいたら即刻やめてほしい。


幼かった私は大人からの一方的な約束を守ろうと、ぼそぼそとお礼を言ったあと素直に自分の机の引き出しにしまった。しかし入れっぱなしの見慣れないぽち袋に母はすぐ気づく。

「なにこれ!誰からもらったの!?」と。

「〇〇おばさん・・・」

母の目尻がますますつり上がる。

「なんで言わないの!?」

「だって、お母さんに内緒って言われたから・・・」

涙声でなんてかわいそうな私。大人に言われたことを守って叱られるのが意味不明だし、もう正月のめでたさなんて母の説教で台無しである。

「お年玉をいただいたらこちらからもお返ししないといけないんだからね。もう・・・」

とぷりぷりしながらあわててお礼の電話をかけようとする母を見ながら、お年玉とはそういうシステムなのかと変に納得した自分がいた。


親戚や近所の人に怒られるより母の怒りの方が何倍も恐ろしい。それからは笑顔で「ありがとう」と受け取ったあと、その相手が見ていないうちに母のもとへ行き、「〇〇さんにこれもらった。」とこっそり報告するようになった。すると母は「あらあら!なんでしょうまったくー」と困った顔をしながらその相手のところへ走り、「本当にすみません。」と謝っていた。お年玉をくれた大人は「本当に少しだから。もう、あやちゃんたらお母さんには内緒って言ったのにー」と笑っていた。


え、なんでそこで私がとがめられなきゃいけないの?


母には内緒という大人。内緒を守ったことで怒った母。内緒を守らず母にチクる私。すまなそうに大人に謝る母。

その一連の流れが心底嫌だったのである。


今なら母の気持ちもわかるが、もう少しこどもの気持ちの負担にならないようにできなかったものなのか。あなたたち大人でしょう?

今現在私には甥も姪もおらず、親戚とは疎遠になっているためお年玉をあげる機会はない。しかし友人のこどもにお年玉をあげるときは、必ず友人の目の前で、こどもに渡す。

「はい、かわいい〇〇ちゃんにお年玉。今年もいっぱい遊んでね!」と。

すると友人は「うわありがとうーなんか気を遣わせてごめんね。ほら〇〇、お礼言わなきゃね。」と促してくれ、こどもも笑顔で受け取ってくれる。

そこまで気を遣わなくてもという意見もあるだろうが、せっかくのお正月、せっかくのお年玉をこどもには純粋に楽しんでもらいたい。そのためには大人の妙な都合でこどもに足枷をかけてはいけないと考えるのである。




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