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課長よ、君爆発させるなかれ


私はこじんまりとした支店で営業事務をしており、直属上司である課長は今年50歳である。

他にももちろん営業さんはいるが、外回りが多いため必然的に課長と社内で過ごす時間は多い。パッと見どこにでもいるおっちゃんなのであるが、業務を滞りなく遂行していればあとは口は出さない、ひょうひょうとしたドライさが私に合っていると思われ、日々のびのびと仕事をさせてもらっている。


いつもと変わらない、とある日。12時からのお昼時間。すでに口をもぐもぐさせていた私より少し遅れて休憩室にやってきた課長は、お弁当を温めようとしていた。課長はたまに外にランチを食べに行くこともあるが、奥様の作られたお弁当を持参し社内で食べることもある。その割合はちょうど半々くらいだろうか。ちなみに私は外に出るのがおっくうで、もっぱら自作の適当弁当だ。


課長がまさに電子レンジにお弁当を入れようとしたとき、お弁当の中のなにかが銀色に光るのがチラッと見えた。


ん?銀色・・・?


私はあわてて声をかけた。


「課長!それアルミカップ入ってませんか!?


課長は特に動じる様子もなく、

「うん?ああ、おかずのカップだな。それがどうかしたか?」

と。

「電子レンジにアルミカップは駄目ですよ!火花が散ってスパークしてレンジが壊れます!」

と、説明した。

「そうなのか!?いやー知らなんだ・・・。」

と、素直におかずの入ったアルミカップだけ取り出しテーブルのお弁当を包んでいた青いバンダナに置き、残りを温め始めた。


危うく明日から冷え冷えのお弁当を食べる羽目になること(&本社からギッタギタに怒られること)を回避し、ホッとしつつその後はいつものように談笑しながら、お昼の時間をなにごともなく終えた。

***


しかし、仕事を終え帰宅してから私は、ふと、考えた。



もしかして、今って電子レンジにアルミカップ入れてもOKなの??


電子レンジにアルミカップを入れるとスパークするなんて常識のように思いこんでいたが、もはや昔の古い情報なのだろうか?今はだいぶ家電の性能も上がっているだろうし、もしやアルミカップも進化して火花をあげない作りになっているのだろうか??

第一、課長の奥様は主婦歴が長く私よりよっぽど多くごはんを作り、よっぽど多くのお弁当を課長やお子さまに持たせてきたであろう。そんな人がお弁当に電子レンジNGのアルミカップを入れるだろうか?


猛ーーー烈に不安になってきた。


きっと課長の性格からして、帰宅後空のお弁当箱を奥様に渡しながら、今日のお昼のことを話すだろう。

「事務の子が言ってたけど、アルミカップは電子レンジに入れると火花が出て壊れるから、駄目なんだと。」

「あらー、その子ずいぶん遅れているのね。それは昔の話で、今は電子レンジに入れても大丈夫なアルミカップがあるのよ。というか電子レンジ自体今は性能が上がっているから、ちょっとアルミを入れたくらいで壊れたりしないわよ。本当になにも知らない子が事務をやっているのね。」

(※ただの妄想です。課長の奥様は実際とても優しい方なのであしからず。)


・・・・・・うわあああぁぁぁぁぁっっっつ!!!!


やっちまった。絶対やらかした。頭を抱え込んだがもう遅い。


ー翌日ー

お昼になり、休憩室に移動し課長がお弁当のふたを開けた。すかさず横目で中身をチェックする。


・・・今日はアルミカップが入っていない。


そのとき課長が話し出した。

「いやー昨日の弁当のアルミカップのやつさー。。。」


キタ。


まさかの先制攻撃。まだクビにはなりたくないなーと思いながら、「はい、どうしました?」と冷静を装う。

「嫁に聞いたら、え!?お弁当あっためてんの!?って言われたんだよな。」


・・・はい??


「てかそれ電子レンジ対応の弁当箱じゃないし。って言われてよ。」


・・・・・パードゥン???


つまり、アルミカップが電子レンジご法度なのは奥様はもちろん承知していた。旦那が職場でお弁当を電子レンジで温めていると知らず、アルミカップに入ったおかずを詰め、しかも電子レンジ非対応のお弁当箱に入れてたという。


セ、セーフ・・・


よく見てみればお弁当箱も替わっている。きっと電子レンジ対応なのだろう。やはり優しい奥様である。なにはともあれ、私は一命をとりとめた。


余談だが、後日課長はおでんを温めようとして玉子もそのまま電子レンジに入れようとしていた。また私は「ひっ!!」と小さな叫び声をあげ、「電子レンジに玉子は駄目です!爆発しますよ!!」と止めた。一度ならず二度までも、私は職場の電子レンジを守ったのだ。


その後のまたまた余談、


「なんでか、家で電化製品を触らせてもらえねえんだよなあ~」と課長はぼやいていた。


・・・お気持ちよーーーくわかりますよ奥様。




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