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淺岡彩乃
2023年5月1日 07:00
マダムの店は気まぐれだ。オープンして半世紀。いまや地元で最も老舗となってしまった。年齢も相まって、このところほとんど休業状態。けれど今日という日は特別。行きつけのバーが唯一、お休みする貴重な日。この日は誰に言うでもなく、ひっそりと店を開けるのだ。カランコロン。古い木製のベルがまろい音をたて来客を告げる。そこには見覚えのある男女ふたりの姿。「あら、いらっしゃい。よく此処がわかっ
2023年4月3日 07:01
今夜のRa・mostは珍しく賑やかである。みめ麗しい三人の女性がおしゃべりに興じているからだ。その会話のトピックスは一貫して恋愛話。すっかり常連となった強面の彼が眉根をひそめる。「いいのか?あれ」そちらを一瞥しながら小さく呟く。彼女らの手元にはいまだ一杯目のカクテル。「楽しそうでなによりです」「あんたがそう言うなら、俺の出る幕はないね。ご馳走さま」「最近ご無理はしていま
2023年1月30日 07:11
都会の喧騒から離れた裏通り。人目を避けるようひっそりと古い造りのバーがある。そこでは何やら不思議な体験が出来るともっぱらの噂。知ってか知らずか、今夜も迷える子羊が訪れる。バーの名は「Ra・most」「とにかく、可愛くてね。寄り道せずに真っ直ぐ帰る毎日なの」「そうなんですね」「猫なんて興味なかったのになぁ」「ニコラシカの影響ですかね?」「そうなの、きっとそう!だからマス
2023年1月9日 07:18
都会の喧騒から離れた裏通り。人目を避けるようひっそりと古い造りのバーがある。そこでは何やら不思議な体験が出来るともっぱらの噂。知ってか知らずか、今夜も迷える子羊が訪れる。バーの名は「Ra・most」「助けてください!」オープンまで五分といったところに突如女性が転がり込んできた。「どうされましたか?」切羽詰まる表情。ただ事ではなさそうだ。マスターはエプロンをカウンターに脱
2022年12月5日 07:04
都会の喧騒から離れた裏通り。人目を避けるようひっそりと古い造りのバーがある。そこでは何やら不思議な体験が出来るともっぱらの噂。知ってか知らずか、今夜も迷える子羊が訪れる。バーの名は「Ra・most」「お客様、浮かない顔ですね」くたびれたスーツ姿でちびりちびりとジンバックを飲む青年。「仕事が大変でして」なるほど、目の下には色濃い隈が刻まれている。「では特別な商品をご案内