見出し画像

地方デザイナーの役割

月末〆の仕事が数本終わり、久しぶりにゆったりできる休みの朝。天気もよかったので近所の温泉施設にでも、と足を運んだときのお話。

温泉といえば露天風呂。午前中ということもあって木漏れ日の差す窓の向こう、さあ〜浸かるぞー!と引き戸を開いた瞬間。

目に飛び込んできたのは赤いコーンと養生。「あら、もしかして工事中!?開放されて入れなかったのかな…」と裸のまま一瞬立ち止まってしまった。

しかしよく見るとそれは「こちらからはお風呂に入らないでください」のアテンションだった。小さな露天風呂に、それがどでーんと大きく、2つ。

「んん。どうしたものか」と思いつつも温泉に浸かる。ああ〜気持ちがいい。目を瞑ればきれいな空気と鳥のさえずりに、心は落ち着いている。

気分もいいのでもうひとつの壺風呂とやらに。

入ろうとした時、目に飛び込んできたのは「壺風呂は大勢の人が入ります。お一人さま時間をみてよろしくお願いします」のアテンション。

しかもそれは2本の木をぐぐーっと寄せて縛り付けてあり、なんと傷ましい伝え方だろうか。

さすがに、趣もなくなってしまってお風呂に浸かりながら色々考えてしまう羽目になった。

どうしてこうなるのか。理由は明確だ。過去にそういう問題が発生し、お客様からクレームがあったのだろう。そしてその解決策が「アテンションを書く」というものに至っている。そこの施設には「お風呂場のシャンプー・リンスは持ち出さないでください」などなど他にもアテンションがたくさん。

一番早い解決策かもしれないけれど、いや、ちょと待て、と言えるオーナーさんであって欲しい。

一番いいのはアテンションがないことだ。

もっと言えば、人の動きと導線を意識した施設であれば、サインすらいらないかもしれない。本来のデザインの意味とは根本的な部分にこそあり、後付けでサインやパッケージをつくることではない。

今回の場合、温泉施設の導線から作り直すのはさすがに難しいだろう。そういった場合はピクトグラムで温泉のしつらえに合った小さな看板を立てるとか、日本らしく関守を置くとか、照明などを置いて動線をコントロールするとか。髪一本おちていないようなスカッと清浄な雰囲気の施設にして、人が無意識に感じる規制を演出するのも、ひとつの手だと思う。

サインはできるだけ少ない方がいい。サインやデザインなんて、なくても動けるものがいい。それが地方なら特に、だ。

わたしたち地方デザイナーの役割。それは少ない競争の中でグラフィックやWEB界隈でうろうろ彷徨っている場合ではなく、空間や設計から入り込むこと、あるいは今ある施設や公共の場が、本来あるべき姿で機能しているのかを考える「リ・デザイン」こそが地方デザイナーの仕事なのではないか、と思った。

薄っぺらい仕事をしている場合じゃない。デザイナーはゴミをつくるべきではない。と、改めて湯につかりながら思ったのでした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?