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春の三浦と置いてきた日常

玄関の扉をそっと閉めたのは午前5時50分。子供たちはまだ夢の中。
日曜日の朝は、やけに静かだ。平日よりも車が少ない分、空気もちょっとだけ綺麗な気がする。
早朝の空の色が好きだ。ピンク、オレンジ、紫、水色、色んな色が交互に顔を出す。

予定よりも随分と早い電車に乗った。目的地までは私の住む西東京市から約2時間ほどかかるので、
もしも電車が遅延したら困ると思い、気持ちが焦っていたのだ。まぁこれは、朝ご飯をしっかり食べよ!という神のお告げなのかもしれない。目的地に到着したらすぐに走るのだから。
2度目の乗り換えをした品川駅の立ち食い蕎麦屋さんで、コロッケそばをいただいた。

ここのお店はどうやらかき揚げが美味しいらしい

エネルギー補給もしっかりできたところで、品川から京急に乗り、三浦海岸駅を目指した。
今日一緒に走る仲間2人と同じ電車になった。乗車時間は結構長いのだけれど、愉快な仲間たちとのおしゃべりは尽きることがなく、3人で到着前からたくさん笑った。
車内は日曜日ということもあり、人が多く、これから遊びにいくと思われる親子や友人同士で賑わっていた。

「三浦海岸駅〜」車内のアナウンスで到着したことを知る。おしゃべりのしすぎて乗り過ごすところだった。
慌てて電車を降りて改札を出ると、三浦はすっかり春だった。駅の前には河津桜が満開で、多くの観光客が写真を撮りながら春を感じていた。
そんな河津桜の前に午前9時、今日一緒に走るランニング部の仲間たちが14人ほど集まった。仲間たちの笑顔も暖かくて、気持ちまですっかり春のようだった。

荷物を近くの観光バスに預けてから海岸へと向かい、いくつかのチームに分かれて、本日のメインイベントであるランニングをスタートした。
実はこの日私たちは「三浦国際市民マラソン」に参加するはずだった。けれども、新型コロナウィルスの影響で、大会は中止となってしまったのだ。
それでも私たちは走ることを諦めず、リーダーのNさんが考えてくれたコースを自分たちだけで走ることにしたのだ。



砂浜にはある程度の人がいたのだけれど、夏とは違い海に来る目的はバラバラだ。ビーチバレー、お散歩、座っておしゃべり、波打ち際ではカップルが青春の1ページのようなはしゃぎかたをしていた。

きっとどこかにシーグラスが落ちていそうだなと思った

海沿いを走るのは、とても気持ちが良かった。海が見えるだけで、こんなにもワクワクした気持ちになれるのだから不思議だ。
大きな海を見ながら走るのも良かったのだけど、建物と建物の隙間からチラチラと見える海が本当に好きで、走りながらニンマリとしていた。

海沿いをしばらく走り続けると、登り坂に突入した。このままのペースで走り続けるにはちょっと苦しいので、歩いたり走ったりを繰り返して、無理のないように気をつけながら進んだ。坂道を上りきると給水所に設定しているコンビニがあった。
ここでお水を買って休憩をした。

豆の多さにびっくりする豆大福が売っている

給水を終えると今度は山道を走っていく。
さっきまでの海の景色とは全く違う景色が広がる。畑が次々に、得意げな顔をしながら登場する。こっちの畑がすごいぞ!いや、おらの畑の方がすごいぞ!なんて、声が聞こえてきそうだ。
今回の畑の1等賞は大根で、理由は控えめに顔を出して並んでいるところが特に愛くるしかったから。

大根ってかくれんぼしているみたいで可愛い

畑で農作業をするおじいさんは、ちょっとだけ便利そうな機械を使って苗を植えている。私はこういう現場を見るのがすごく好きなので、またおじいさんと機械に会いに来ようと思った。

私の走る速度が遅いため、後から走ってきた3チームに追いつかれてしまった。みんな早くてビックリする。私は日頃からまぁまぁ走っている方だとは思うのだけれど、いかに競技向きではない走り方をしてるかが、他の人と走るとよく分かる。
だけど、私のペースが遅くても文句を言う人はいなかった。最終的には、他のチームの人たちも、私の後を追いかけて走ってくれた。
この無言の優しさみたいなものが、私の所属するランニング部にはすごくある。この優しさのおかげで、3キロ走るのがやっとだった私が、走れるようになり、走ることが好きになったのだ。

ぐんぐん進んでいくと、次は急な下り坂だ。坂の途中では大きなリスがいたり、切り干し大根が干してある家があったり、遠くにまた海が見えてきたりして、一体いつの時代のどこにいるのかが分からなくなるふわふわした感じが、とても心地よかった。

海が見える家に住む気持ちはどんなだろうか

坂を下り切るとまた海沿いに出る。そこからは三浦海岸駅方面に来た道を戻っていく。
右手に海を見るより、左手に海を見る方が好きだなぁとか、そんなことを考えながら、走っていた。

景色を楽しみながら走ったり、妄想をしながら走ったり、考えごとをしながら走ったりするいつものランニングに加えて、この日はそばに仲間たちがいる分、たくさんおしゃべりもした。
おしゃべりしていても息が切れない速度が私の走る速度なのだ。でも、いっぱい笑って喉がカラカラになった。お水がいつもより何倍も美味しかった。
スタート地点と同じ場所でゴールをし、約10キロのランニングを終えた。
続々とゴールをする仲間たちは、みんな笑っていた。なんだかすごく、幸せな気持ちになった。

ランニングを終えると、場所を変えてタクシーで温泉へと向かった。
温泉のある場所は東京湾フェリー久里浜港のそばだ。海を見渡せる露天風呂が、疲れた体を癒やしてくれて、すごく気持ちよかった。しかし先日温泉に入った時に貧血でしばらく動けなくなったことを思い出し、長湯したい気持ちをグッと堪えて、早々に温泉から出た。
昼食まで時間があったので、温泉の出入り口で会った仲間2人とフェリー乗り場へ行って中を軽く見学し、私はソフトクリームを食べた。昼ごはんまであと1時間だけど、走ったご褒美は大切だ。
一緒にいた2人も食べるのかも思いきや、結局私以外誰も食べなくて、痩せてる人たちとの違いはこういうところで出るのだなと実感した。

このフェリーにのると千葉まで行けるのだ
お風呂上がりのソフトクリームは多分カロリーゼロ

お昼ご飯の時間がやってきた。温泉の建物の1階にある海鮮のお店に再度仲間たちが全員が集合した。
この日は全国各地にいるランニング部の仲間たちとも、zoomを繋いでみんなで海鮮丼を食べるという企画を同時開催していた。
zoomを繋ぐとたくさんの仲間たちが美味しそうな海鮮丼を画面に映していた。現地チーム、オンラインチーム、みんなで一斉に乾杯をし、多くの人が海鮮丼を食べた。私はアジフライを食べたのだけれど、身がギュッとしていて、とても美味しかった。骨も揚げてくれていたので、骨まで美味しくいただいた。

味噌汁に入れるかじめという海藻も美味しかった

この日は14時30分には解散をした。
これだけ充実した1日を過ごしたというのに、まだお昼過ぎ。なんだか得した気分だなぁ。
家の最寄駅に着いたとき、まだ空は明るかった。

家に帰ると母の早い帰宅に、子供たちはとても喜んでいた。
しかし、「何買ってきてくれたの?」という声を聞いて、私はお土産を買い忘れたことを初めて思い出したのだ。
三浦にいる間、私は日常生活をすっかりと忘れていた。思い出したことといえば、以前住んでいた熊本にも近くに海や山があって、休日のたびに車で出かけていたなぁということだ。
自然は完成されたものとは違って、行く時期や時間によって全く違う顔を見せてくれるから、本当に面白い。
久しぶりにそんなことを思い出し、今年は車でまた色々なところへ行ってみようかなという気持ちが湧いてきた。

本当の目的であった「三浦国際市民マラソン」には参加できなかったけれど、こうして仲間が選んでくれた最高のコースを、自分の好きな速度で自由に走ったことで、競技ではきっと知ることのできなかった三浦の良さを知れた気がしている。

三浦には、まだまだ私の知らない顔がたくさんあるはずだ。
また走りに行こう。日常は家に置いて、走りながらもっと色んなことを感じにいこう。
この日を振り返りながら、そんなことを思った。

春の次は夏を越えて、秋か冬の三浦に行ってみたい

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