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『百人一首を自分なりにアレンジしてみた。』No.5 猿丸太夫


奥山に 紅葉踏みわけ 鳴く鹿の 声きく時ぞ 秋は悲しき

猿丸太夫(第五番)


(現代語訳)

人里離れた奥山で、散り敷かれた紅葉を踏み分けながら、雌鹿が恋しいと鳴いている雄の鹿の声を聞くときこそ、いよいよ秋は悲しいものだと感じられる。


*****


深い深い山の奥に、一匹の雄の鹿がおりました。
今は秋。
紅葉が敷き詰められた土の上、愛する鹿を求めて彷徨い歩いています。
彼女はどこへ?
あちらへ、こちらへ。
木と木の間をすり抜けて。
ザッザッと足音を立てて。
しっかりと、地を踏みしめて。
雄の鹿は、彼女を見つけられない悲しさに、虚しさに、寂しさに、一声鳴きました。
雄鹿特有の、堂々とした高音でした。
しかしその声は、悲しさに包まれています。
その声は、高く高く秋の空へと轟き、わたしのこころへも響き渡りました。
その声は、愛する彼女にも聞こえているのでしょうか。
雄の鹿は立ち止まり、まるで、彼女の返事を待っているようでした。
しかし、いつまで待っても、待っても待っても、彼女の声も姿もありません。
そのうち、雄の鹿は再び歩き出し、遠く離れ離れになった彼女を探して深い山を彷徨います。

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