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毎年恒例☆読書感想文:羅生門

はじめに

 「困らない読書感想文の書き方」としてYoutube動画を公開予定でしたが、力尽きたのでその時に作成した読書感想文だけ載せます。
 なお、読書感想文はRTA(リアルタイムアタック)形式、つまりどれだけ早く完成できるかを目標とした結果、2時間30分で完成しました。Youtube向けに解説しながらの2時間30分なので、おそらく2時間ぐらいで完成してます。
 需要があれば、来年頑張りますね……
 当たり前ですが、パクリ禁止です。

羅生門を読んで 文音こずむ

  羅生門。芥川龍之介が紡いだ約六千文字の文学に私は憤った。そして過去を思い出した。あの老婆のようになっていたかもしれない、あの日のことを。
 あれは私が小学校四年生のころだったか。お祭りの企画で餅拾いが行われた。私は私よりも背の高い子供や大人に混ざり、餅を拾った。足は踏まれ靴は泥だらけになり、体中あざだらけになった。この時以上に餅を拾ったことはなかった。しかし、私は満身創痍で餅を抱えたままうずくまり、起き上がれなかった。その時、誰かが殴るように私の腕の中から餅を奪おうとした。私は蹲ったまま必死で餅を守った。恐怖よりも怒りが勝った。手は惹かれ、私はその時初めて泣きたくなった。体中痛い。なのに誰も助けてくれない。お松rの喧騒は続いている。地面に涙が吸い込まれるのを見ていると、再び殴りかかられた。次盗もうとしていた手はさっきとは違う手だった。助はない。盗人は二人。私は一瞬の絶望の後、逆に決心が着いた。私は今まで以上の力で餅を守り、盗人を追い返した。母のところに戻って初めて声を上げて泣いた。
 下人は羅生門で雨宿り中、老婆に出会う。老婆は「死人の髪を抜いていた。この死人は生前罪を犯した。私に髪を抜かれても仕方ない。それに私も餓死せず金を作るため仕方なく髪を抜いた」という。下人は「それならば己が追いはぎをしても恨むまい」と、老婆の服を奪い去った。下人の行方は誰も知らない。この文章は有名だろう。
 老婆に会ってからの下人はころころ感情を変えていく。老婆を見つけ恐怖と好奇心を。老婆のしていることに憎悪を。老婆を抑えつけたときに得意気と満足感を。老婆の返答が普通なことにまた憎悪を。そして追いはぎする前に正義感を持つ。というように、下人の感情はころころ変わる。私から餅を奪おうとした人もころころ感情が変わったのだろうか。蹲る私を見て心配を。転げそうな餅を見て正義感を。そう、誤った正義感を持ったのだろうか。
 老婆側を味わった私だからわかる。その正義感は誤った正義感だ。だが、老婆には味方がいない。私は母の前で大泣きしたが、老婆はきっと一つため息を吐いて、また髪を抜き始めるのだろう。下人の行方は誰にもわからない。だが、老婆のこの先の行動は何となくわかる。そのやるせなさも。老婆はきっと、ずっと盗って盗られての世界で生きてきたのだろう。だから、下人の行動に文句は言えない。
 そんなわけあるか。
 私だって決して善い人ではない。今まで嘘もついてきたし、これからも善い人でいたいと思っても、いつか悪いことをするかもしれない。だけど餅を盗られそうになった瞬間は盗人二人が悪だった。だから、今、この瞬間に自分がしていることの善悪を考えて、正しい正義感を選択しなければならないのだ。誤った正義感を選択できるだけの材料が手に入ったとしても。
 老婆も死人の髪を抜くのは確かに悪かった。だが、追いはぎの直前、誤った正義感を選び取った下人を私は許せない。
 さて、羅生門は芥川龍之介が書いた作品である、これは過去に書かれた、教科書に載るような、ただの凄い小説だろうか?いや、私はそうは思わない。私が餅を盗まれそうになったように、誤った正義感を選び取ってしまう人は今もいる。私もきっと、誤ってしまうことがある。
 周りを見回しても、誤った正義感を選び取る機会を自ら探していないだろうか?少しのミスで店員さんにクレームをつけていないだろうか?道に落ちている財布を自分のものにしていないだろうか?気に入らないクラスメイトがいるからって、周りにいじめをもちかけていないだろうか?誰かが悪いことをしたかもしれない。だがその対応は警察の仕事であって、あなたの仕事ではない。
 もし下人の行方がわかったら、餅を盗もうとした人がわかったら、私はそう説教する。老婆のやるせなさがわかる私だからこそ、追いはぎされた瞬間だけは、老婆の味方になるのだ。
 この本の最後にある、有名な文章。「下人の行方は誰も知らない」私はこの下人のように、誤った正義感を選び取りたくない。そして、「下人の行方は分からないのか、なら仕方ないね」と老婆のやるせなさをなかったことにする、ただの読者でもいたくない。行動する人が増えれば、きっと老婆も、過去の私も救われるだろう。もしかしたら、芥川龍之介も。

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