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山登りはじめました

山登りのきっかけ

 「今年は低山ハイクをしたい。」
 妹にそう言ったのは、2023年の初頭だった。1月生まれの私は9月生まれの妹と毎年、欠かさず誕生日のプレゼントを交換している。お互いの誕生日が近づいてくると、プレゼントはなにがほしい?と連絡をとりあう。
 去年、私は妹に冒頭の言葉の後、トレッキング用のシューズを買うと伝えた。それからあっというまに一年が経とうとしていた。2023年の冬が来た。
 私の中で低山ハイクへの意欲はとろ火のように燃え続けていた。がいまいち、始めるまでの勢いが生まれなかった。
 2023年年末、急にキャンプに行きたくなった。Youtube動画をみていた私は、徒歩キャンプに行きたくなった。それまで、バイクでキャンプに行くことが多かったのだが、すっかり寒さに負け、暖かい公共交通機関で向かいたいと心は弱りきっていた。
 快適なキャンプ、アウトドアがしたい、そう思った。
 早速、家にあるバックパックにテント、寝袋、テーブル等々、キャンプに必要なものを詰めてみた。が全然、入り切らない。入り切らないものを手提げ袋に入れて運んでもよいのだが、それでは快適さが損なわれてしまう。両手が空いていないと不便だ。
 せっかく、暖かい電車やバスに乗り、うたた寝しながら目的地に向かう快適さを選んだのに、バックパックを背負った状態で、手提げ袋を持つスタイルはなんとなく、惜しい感じがする。
 そうだ、荷物が全部入るバックパックを買おう。それなら山岳用バックパックにしよう。これでようやく低山ハイクにも行ける、安易にそう考えた。
 冬はあっというまに終わり、暑い春夏が来るという昨年の反省から、2024年を迎えてすぐ、山岳用品のお店にバックパックを買いにいった。ネットやYoutubeで山岳用品の知識を蓄え、さらに、その副産物として山小屋泊の素敵さをYoutubeで啓蒙された私は、バックパックを買うなら山小屋泊に対応できるものがいいなと漠然と考えながら、お店に向かった。山岳用品のバックパック売り場には、熟練の店員さんがおり、聖徳太子のごとく1人で5,6人を相手しながら、私の身体に合うように神フィッティングをしてくれた。
 結果、高性能な山岳用バックパック、ぎりぎりテント泊もいけるサイズのものをお手頃価格でゲットした。

 さて最近の山道具は、とても軽く作られているのをご存知だろうか。私の求める快適というのは、軽くてコンパクト。
 コンパクトにスマートに山に行きたい。そしてYoutubeを漁っているうちに、私は「UL」というキーワードをよく見かけるようになった。
 UL=Ultra Light? 究極まで荷物を少なくし、なおかつ道具自体も軽いものを選ぶスタイルらしいことはわかった。それ、私がやりたいスタイルじゃない?と思って調べてみた。そうしたら実はULスタイルは奥が深かったのだ。
 ULスタイルで野外遊びをするYoutuber達がよく話題にあげる専門店、東京の三鷹にあるハイカーズデポ。その店主の土屋さん。Youtube動画でもよくみかけるUL界では有名な方らしい。
 そうとは知らず、Kindleで見つけた書籍「ウルトラライト ハイキング」。その著者はYoutubeでよく見かけていた土屋さんだった。
 「ウルトラライト ハイキング」 https://amzn.asia/d/0U4mGLL
 この本が私に登山道具に対する考え方の基本を与えてくれることとなった。

ウルトラライトハイキングとは

 "ウルトラライトハイキングの「軽さ」にしか目をむけないのはもったいない。むしろ、その向こう側にある「シンプルさ」や「自然との関係」にこそ、ウルトラライトハイキングの核心があるのです。"

 まえがき部分で書かれていたこと。
 ただただ、楽をしたい、快適にアウトドアを楽しみたいと思っていた私にその一言が突き刺さった。
 ウルトラライトハイキングには、深い哲学や思想があったのだ。
 
 この書籍にはまず、ウルトラライトハイキングの歴史、哲学、原則、そして日本の流儀について書かれており、その後、各論のように具体的な装備選定の考え方が細かく丁寧に説明されていた。
 
 もともとはアメリカのロングトレイルでの装備についての考え方が起源。何百キロもひたすら何日もかけて歩くロングトレイルでは、装備をできるだけ軽くする必要があった。
 荷物は軽ければ軽いほど、体にかかる負担が少なくなると思いがちだが、必要な装備がある上での最低限でなければ、長い距離を歩けない。自然の中を歩くときには、自分の都合だけでなく自然とのつきあい方、気候や環境への適応の仕方まで考えなければならない。

 "スルーハイカーにとって「速さ」は目的ではなく、あくまで結果です。"

 数年前、キャンプを始めた時、私は豪華なキャンプ装備に目を奪われがちだった。家のような快適なテント、テーブル、椅子、クッカー、コット、寝袋。そして、現に日本のキャンパーの多くは豪華な装備を車に積んで、その豪華さを競うようにキャンプ場で豪華な装備を展開していた。

 しかしながら一方で、Youtubeでアウトドアを紹介している人たちを見ていると、最初は装備の豪華さに凝っていたが、最終的には野宿に近い最低限の装備での野営に楽しみを見出す人も多々いることに気づいた。

"過剰な道具は必ずしもハイキング&キャンピングの楽しみや安全の本質ではない レイ=ジャーディン"

 シンプルな装備で厳しい自然を乗り切るには、最低限、必要な装備を冷静に見極める必要がある。結果として家のように快適なテントは持ち運ぶには重すぎて、軽く張りやすいタープのような簡易な雨をしのげる装備を選ぶことになる。それは、外の冷気、湿気、そして虫や植物、動物の影響をうけることが多くなる装備でもある。

"ハイカーと自然との関係をより濃密なものにするためのスタイル”
"道具を軽くするのではなく、自然とつながる感覚を得ること、それこそがウルトラライトハイキングの核なのです"

 つまり、ULスタイルは当初に私が考えていた「快適さ」求めるための道具の軽量化ではなかったのだ。自然の中で過ごすというのに、家と同じような快適さを求める自分の甘さ、幼稚さを指摘されたかのように感じた。お前は自然と向き合う心構えができているのか?と。
 そう、快適でいたいのなら、宿泊施設が運営しているグランピングに行けばいいのだ。けれど、自分でテントを設営したり、持って来た道具で火をおこしたり、その火でご飯を作ったりしたいと思っていた私は、自分の中途半端なアウトドア志向に気がついた。

 では、自分がどのようなアウトドアスタイルを目指したいのか。
 自然の中で私達はあくまでお客さんであり、自然に対してローインパクトであることはもちろん、自然の中で過ごす人に対しても優しくあること、それが自分が目指したいスタイルだと思った。

 荷物を少なくすれば軽量化されるけど、それでは必要な装備が不足するのではないだろうか。そんな疑問もよぎった。
 荷物を少なくする上で大事な考え方は、ものを一つの使い方だけに限定するのではなく、幾通りにも活用して、不便さを感じないこと。それは、地球環境を考える上で必要とされるようになったエシカル(倫理的な)な思想にも繋がっている。地球環境には優しいけど、人に忍耐を強いるようなものでは長続きしない。怠惰なのは、なにも私だけではない。人も自然の一部であり、多くの人にとって続けやすい物事であることが、結果、自然にとっても良い結果につながるのだと思う。
 同じところに住み続けるのであれば、物を貯め込むことができる。けれど、旅を長く続け、歩き続けようと思えば、物を貯め込めことはできない。自分が生きていく上で必要な最低限はどのくらいなのか、このような体験を積み重ね「足るを知る」を実感することになるのだろう。

 この荷物に関する考え方、前提条件がぶれなければ、自分が旅をする上で揃えるべき装備についての考え方の軸がしっかりする。自分の中に価値観、優先順位が明確であれば、持っていくものを適切に選ぶことができる。少ない道具で賢く使い回し、道具をスマート&シンプルに使いこなす。それが自分にも自然にも優しい結果を生む。それがULスタイルの荷物選びだった。
 
 書籍ではこの思想に基づいて、各装備について一つ一つ、選び方を説明してくれている。
 選ぶべきはレインウェアなのか、ポンチョなのか、テントなのかタープなのか等々。
 それは、キャンプ、山登りする人にとっては、必要な最低限な知識だと思った。
 著者の土屋さんは、山岳登山を数多く伝統的なスタイルでこなして来た方で、ULではないスタイルについても熟知している。だからこその説得力。この本は、山登りやキャンプを始めたい人にもお勧めしたい最初の一冊でもあったのだ。

 自分の当初の考え方のままでは、道具選びがチグハグになり、そして、軽量化してはいけないところで、誤った道具選定をしてしまうところだったと思う。自然に優しくなどと書いたが、自然は人に対しては全く優しくはない。一歩間違えれば、低体温で命を失うこともある。命を落とさずとも、体調を崩し前へ進めなくなるかもしれないし、身体のどこかに負担がかかり、怪我をしてもしまうかもしれない。もしくは、アウトドアの楽しさを知ることなく、挫折してしまったかもしれない。
 伝統的な登山、ハイキングの考え方を知った上で、UL思想を取り入れるという流れをたどることが初心者には必要なのだと感じた。

 今回、ULスタイルのキャンプ、ハイキングを知ったことで、その思想・哲学を実現する装備を作るガレージブランドやガレージからスタートしてメジャーになったブランドの数多くを知り、山登りだけでなく日常生活でも使うと便利になる道具を沢山知ることができた。入り口は「楽をしたい、快適でいたい」というものぐさな私の動機だったが、地球環境にやさしく、そして安全なトレイルについての知識を得られたのはなによりだった。

 こういう出会いもあるので、ぐうたらな怠惰から生まれる欲求をすべて否定するのはもったいないと思う。楽をしたいと思うことがすべてのイノベーションにやはりつながるのだ。

 今回、低山ハイキング、登山の情報をたくさんの書籍から得た。ネットに情報が転がっている時代とはいえ、自分に必要な情報を効率よく探り当てることの難しさをあらためて実感した。やはりコンセプトをしっかりもって、有識者の監修があり、プロによりわかりやすくまとめられている書籍のありがたみを感じた。

以下、山登りを始めて参考にしている書籍です。

「雪の近郊低山案内」
https://amzn.asia/d/hpufD6w

「日帰りウォーキング 関東周辺1」
https://amzn.asia/d/0OrrJvb

「日帰りハイク関東」
https://amzn.asia/d/jkySytO

「一生、山に登るための体づくり」
https://amzn.asia/d/35NWt0S

「日帰り山さんぽ 低山をきわめる」
https://amzn.asia/d/izL2vT5

「駅から山歩き 関東版」
https://amzn.asia/d/fgira93

「大きな地図で見やすいガイド 高尾・奥多摩」
https://amzn.asia/d/1LDM7g2

「日々野鮎美の山ごはんレシピ」
https://amzn.asia/d/hQzYA4a

「ソロ登山の知恵」
https://amzn.asia/d/bUzfw5W

次回は「ソロ登山の知恵」の感想をまとめる予定です。
私の山歩きは基本ソロが多いので、事前に読んでおいてよかった本でした。

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