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当時の日記より83@2010 1/9

姫(母)は入院中。何気なく夫に呟かれた『この先どのくらい続くのか分からないんだから、車椅子買っちゃえば』との言葉にはっとする。調べた中の最安値は16700円。レンタル代2回分より安く買えてしまうのか。これであの面倒なやりとりが無くなると思えば。

昨夜の電話で『干し柿とダノンビオと紙皿を持って来て』と指令が下る。やっぱりあの干し柿、私が食べるのは許せないんだ。

紙皿が無くて使い捨ての小どんぶりを購入して病院へ。

「紙皿何に使う予定だった?これしかなかったんだけど代わりになる?」

「果物を乗せるお皿が欲しかったの。それでいいわよ」

言われた物を買っていくだけでは満足しない姫。今度は売店に行ってくるように言い出す。いつものことだから気にならない。そして再び病室に入ると

「このどんぶり、何するの?邪魔なんだけど」

「え?果物いれるんじゃなかったの?」

売店に行っていたほんのわずかな間に忘れてしまったらしい。でも話していて思い出したようで

「じゃぁりんご入れるからいいわよっ置いていきなさいよっ」

と怒る。私は本当に無駄に怒られている。

以前、よく姫と同室になった私より少し年下の女性。入院フロアが変わったので、彼女の顔を見に行くといって姫から逃げた。腹立たしい時に傍にいてはだめだ。

彼女は私を見るなり

「どうしたの?疲れた顔してる」

そして

「卯月さんの介護は普通の介護の10倍くらい、労力使うよね。だってあのお母さんだもん」

見えている人にはきちんと真実が見えているんだ。ちょっと気が晴れた。

夜、NHKのドキュメンタリー「二本の木」を見た。奥さんが肺がんになり、介護生活を支えたご主人も胃がんが見つかる。二人がそれぞれつけていた日記を朗読するという構成。奥さんは始終ご主人を気にかけ「患者が目の前にいることは大きなストレスになる。早く入院したい」という冒頭のシーンでもう号泣だ。姫にはどうしてこんな気持ちがないのだろう。

入院中、物を取ってくるように言われて実家に戻り探していた時、落ちた手帳を拾い上げてたまたま開いたページが目に入った。そこには私の悪口が書き連ねてあって衝撃を受けた。この奥さんと姫はあまりに違いすぎる。人の気持ちが想像出来ない罪はあまりに重い。


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