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当時の日記より212@2011 2/11

葬儀の事前相談を進めている。父の時と同じ葬儀社に。互助会で積み立てをしていたし、何よりも私が初めての喪主で頼る身内も居ないことから大変親身にスムーズに動いてもらった。死去後にどれだけバタバタするか経験済みなので、今回は少し早めに動き出したのだ。何もしない姫を見て育った私は、何でも先手先手を打って行動するきらいがある。

雪で寒いせいか、ここのところ頭痛もずっと続いており不調。せめてメンタルは穏やかにといきたいところだが、事件が起きた。

夕食の支度をしていた時、姫(母)から電話。

「どうしたー?」

「どうしたじゃないわよ、何のんきな声出してるの!!」

すっごい怒ってる。

「メール見たから!一体どういうことよ。私を転院させるだのその手続きを進めているだのって。私は何も聞いてないわよっ私に隠れて何こそこそやってんのよ!!」

「ちょっと待って落ち着いて。意味が分からない。私は今日マイヤー(愛犬)の写真送っただけだよね。文章は送ってないよ。だからそれ私からのメールじゃないでしょう?送り主の名前確認してみて。いつ受信したの?」

「そんなの知らないわよ!!誰からいつ届いたかなんて!!」

「じゃどうして私だと思うの?」

「卯月の名前があるからよ!」

「送信者が私になってるの?」

「しつこい!そんなの分からないわよっ。お友達からメールが来たから後で読もうと思ってそのままにしておいたら、卯月からメールが届いたのよっ転院がどうの手続きがどうのって。訳の分からないこと並べ立てるからこうして今電話してるんじゃないのっ何勝手なことしてるのよ!私がいつここから出ていくことを了解したのよっふざけたことするんじゃないわよっ!!」

「だから私はマイヤーの写真しか送ってないって」

「しつこいっもういいっ!」

電話は切られた。

なんかかなりヤバい。錯乱?幻覚?妄想?念のため送信履歴を遡ったが、もちろん私がそんなメールを送った事実はない。食事の支度を中断し病棟に電話。タイミングよく姫の好きな看護師さんが出た。経緯を伝えると

「え、なんか妙だよね。今病室覗いてくる。かけ直すよ」

すぐに電話がきた。

「トイレに行ったら少し息苦しいわってベッドに腰かけてた。メールの件は触れずに何か変わったことない?って聞いたけど、いつも通りだよ、にこにこして。何でいきなりそんなこと言い出したんだろうね。初めてだよね。看護記録に残してスタッフに報告するよ。今日は帰っちゃったから明日、傾聴さんにも入ってもらう」

プロの彼女が思いのほか不安がって私より動揺している。なんだろうマズい兆候なのか。

そもそも携帯の使い方が未だに分からない。メールを見ようとして何か余計に触れてしまい、どんどん過去の受信メールを遡っていったのではないか。そこで出て来た単語を切り張りして私のせいにしたのではないだろうか。これからは消しておかなくては危険だ。

食事作りを再開しながら思わず鍋に向かって話しかけた。

「もう限界だこんな生活」

って。無論、鍋が返事をしてくれるわけじゃない。そして誰かが代わってくれるわけでもない。

夜。

「そろそろ寝るわね」

と電話が来た。断らないで寝るのが不安なのかどうか、年明け辺りから毎日これから寝ると告げる電話が恒例になっている。さっきのやりとりはもう綺麗さっぱり消えたらしい。

「あのね、明日なんだけど1300円のチョコレート2つと1000円のチョコレートを2つ。忘れずに買ってくるのよ、いいわね!」

昨年の退院前、チョコレートを沢山買わされた。何をするのかと尋ねるとバカにしたような言い方で

「はぁ?クリスマスだから。クリスマスには仲のいい人にチョコレートを渡すのは常識よ?卯月は何も知らないのね、呆れるわ」

と言われた。バレンタインだろと思ったが黙っていた。そして2月になってから延々とチョコレートを買わされ続けている。要求されるものが高額なので腹立たしいが言われた通りにしないとぶちキレるから黙って従う。それなのにいきなり1300円とか謎の金額設定。

「先生にも看護士くんにも散々配りまくったじゃない。もうあげる人いないでしょ」

「看護師さんに」

同性は安価でいいらしい 笑。

「あとね、サラダとか買ってくるのもう止めなさいよ。私は好き嫌いなく何でも食べるほうだけど、サラダだけは嫌だって言ってるのに、卯月は意地悪だからわざとサラダしか買ってこないじゃないの」

「はあ?!何を選んだらいいのか分かりませんね、私は」

「卯月って人の話を聞かないのね。サラダは嫌だって今言ったのよ。サラダ以外を選びなさいよ!いい?あとは朝ごはん用のおにぎりと明日と明後日の夕食のおかず。ちゃんと選んで買ってきなさいよ、いつもみたいに適当に済ませずに。分かったわね!」

「はいはいおやすみなさい」

傾聴さんに以前言われた。「食の要求すら出来なくなる日が迫ってる。だから可能な限り聞いてあげて」と。いつだよ、それ。全然こないじゃないか!

私は頭がおかしくなりそうだ。



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