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【詩】グミ

グミ

還暦をとうに越えた仕事仲間の陽光さんは
お菓子のグミが大好きだ
お洒落なスーツのポケットに
いつもグミを忍ばせている

特にフルーツ系が好みらしい
グミの強すぎない香りと
飴より柔らかく粘っこい食感
ガムよりしっかりした歯ごたえと弾力が
すごくいい塩梅なのだという
ごくんと飲み込んでしまえることが
何より心地良いそうだ

ある午後 陽光さんは
眩しい昼の休憩時間に
屋上のベンチに腰を掛け
口の中でグミをくちゃくちゃさせながら
古い瓦を擦り合わせるような声で
自分の生い立ちを語った
孤児院で育ったこと

施設の庭では
毎年初夏になると
葉っぱの緑が鮮やかさを増したグミの木に
とても愛らしく真っ赤な実がたくさん稔った
他の子供達は無邪気にはしゃぎながら
実を摘んでは食べていたというのに
陽光さんはどうしてもできなかったという
自分自身の手で
切ない果実を残酷に扱う気がしたのだそうだ
最近やっと普通に話せるようになったと呟き
照れたように笑った

「その頃
いい匂いの消しゴムが
食べたくて堪らなかったんですよ」

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