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6. ムンバイの午後三時

ムンバイの午後三時

乾季に横たわる郊外の街は
水浴びから帰った子供のあくびのよう
フラットのゲートを覆うマンゴーの木陰の椅子で
ウオッチマンが身体を斜めに傾けたまま うたた寝
早朝の爽やかさから夢中で過ごした汗がまどろむ
潜み続ける恐怖がまどろむ
苦しみさえおだやかにまどろむ

昼寝の邪魔をしないよう
フラットの騒音禁止は午後二時から四時まで
バナナとヤシの木の葉擦れや鳥のさえずりが 
人気の少ない長閑さの中でノクターンを奏でる
少し離れた大通りを行くクラクションの音は
太陽のまわりで焼けた空気のように遥かで滲む
眠りの向こうに逃げ込んだ生き物たちの
太陽に残した捨て台詞が
光の裏からじんわり木霊する 
さらさらと笑いながら

眠りは救い
絶対的な光の末端が
慣れ親しんだ高みから放たれる
人間の背くらべは
本能を見失ってうろたえる蟻のうごめき
大きな格差は
感傷的なあきらめや羨望さえ生まず
小さな格差は
激しい嫉妬を自己顕示欲にこびり付かせる

眠りは愛
まどろみは心の真実を思い出させる
些細な幸せを見逃さず 
些細な幸せに浸ること
それらを心が簡単に手放す術さえ

今を克服できるなら
未来を去ることも可能だろう

ムンバイの午後三時
悲痛な喜びさえおだやかにまどろむ

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