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2023年に読んでおもしろかった本

2023年はさほど本が読めず、また悲しいかな読めてもどんどん内容を忘れていきました。そんなぼんやりした記憶の中でも「おもしろかったな」と印象に残った本です。

◾️『われらみな食人種 : レヴィ=ストロース随筆集』レヴィ=ストロース

以前にレヴィ=ストロース入門の新書を読んだときに、いとこ婚の分析のところが複雑すぎて頭が煮えたってしまった記憶がある。しかしこれはエッセイなのでそこまでむずかしくない! サンタクロース論でなまはげもサンタの親戚なのだと知る。食人/食肉論もおもしろかった。

◾️『ミシェル・フーコー : 近代を裏から読む』重田園江

終始早口になっているような語り口の熱さがよかった。フーコーの思想というのはいまの時代のポリティカルコレクトネスから逸脱するところも少なくなさそうだと読んだけれど、これからの時代にどのようにまた鑑みられ・受容されていくのだろうと興味深く感じた。

◾️『現代思想入門』千葉雅也

学生のときにこんな授業を受けてみたかった…と思いながら読んだ。紹介されるいろいろな思想家の中でも、やはりミシェル・フーコーに一番興味をひかれるところがあった。

◾️『やりなおし世界文学』津村記久子

こんなふうに自分の日常や考えと地続きで「文学」の感想を語ることができたなら、と思った。

◾️『プラヴィエクとそのほかの時代』『昼の家、夜の家』オルガ・トカルチュク

どちらも夢と現実、歴史と現在の境界線を歩いていくような読み心地だった。自分の地元の山道を歩くときの、松葉の下のふかふかした土の踏み心地や、菌類の匂いを思い出した。

◾️大江健三郎(『空の怪物アグイー』『新しい人よ眼ざめよ』『静かな生活』『M/Tと森のフシギの物語』『芽むしり仔撃ち』『「雨の木」を聴く女たち』『懐かしい年への手紙』『宙返り』)

2022年に引き続き、大江健三郎を読んだ。読んでいる間は骨が折れるというか、早く読み終わらないかなと思うのに、実際読み終わるとほどなくまた別の作品を読みたくなるという不思議。読んだ中だと特に『静かな生活』『芽むしり仔撃ち』『「雨の木」を聴く女たち』を楽しんだ。
大江健三郎の私小説(偽私小説)的な作品にについては、作者の家族や身の回りの人はフィクションの登場人物にされるということをどう受け止めて消化していたんだろうと考えて気になるところもある。例えば大江健三郎の長女と思しき「私」が主人公の一人称小説『静かな生活』。とてもおもしろかったけれど、リアル長女氏の立場に立てば、父親が自分に成り代わるようにして書いたフィクションというのはちょっと気持ちが悪いという以上に自分というものが奪われるような感覚に陥るのではないか、これをそのまま楽しく読んでいいのかなあ、とちょっと後ろめたくなりながらの読書だった。一方で、大江作品でおなじみのイーヨー/ヒカリさんとかサクちゃんとかオユーさんにはいち読者としては親しみを覚えつつもあって、さまざまな作品に登場するたびに嬉しいというか、大江スターシステムというのかマルチユニバースというのか、そんな受け止め方で楽しんでしまっているところもある。

◾️イーディス・パールマン(『双眼鏡からの眺め』『蜜のように甘く』『幸いなるハリー』)

感想はこちらに書きました。 

◾️『すべての月、すべての年』ルシア・ベルリン

火のような人が書いた短編集。まだ小さく若い火、音を立てて燃えさかる炎、勢いは衰えても消えない熾火。ひとりの人から発せられるさまざまな時代の熱や光、影や寂寞を味わった。

◾️『海の乙女の惜しみなさ』デニス・ジョンソン

短編集。内容やストーリーの記憶はすでにおぼろだけれど、ヒリヒリするような繊細さというところで印象に残っている。

◾️『私の名前はルーシー・バートン』エリザベス・ストラウト

実家というものについて鬱々と懐かしく思い返したことのある人にはおそらくとても染み入る小説。

◾️『グランド・マザーズ』ドリス・レッシング

短編集。親友同士の女性たちが互いの息子と関係を持つ…という一見メロドラマのような筋立てで、メロドラマだけではないところに巧みに抜け出ていく表題作。ドリス・レッシングの小説を読むのは初めてだったけれど、他にももっと読みたいと思った。

◾️『青い野を歩く』クレア・キーガン

短編集。どの作品も巧みで、とりわけ表題作が素晴らしかった。この一冊しか邦訳が出ていないけれど、この作者のほかの作品も日本語で読みたい。

◾️『心は孤独な狩人』カーソン・マッカラーズ

村上春樹訳というのは良くも悪くも春樹味が出るという印象を持っていたけれど、これはほとんど春樹味を感じないフラットな訳文だと感じた。孤独の中にあって求め合いつつも、互いに噛み合わない人々を描いている。耳の聞こえないシンガーとアントナプーロスの二人組の関係やエピソードがこの物語の芯になっているように感じられる。特に誠実で優しく、しかしアントナプーロスにしか心を開かないシンガーのキャラクターに引き込まれた。

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