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シーナ・アイエンガー「選択の科学」を読んで/本の話

シーナ・アイエンガー「選択の科学」を読んだ。

シーナ・アイエンガー「選択の科学」

 やっと読み終わった。かなり骨太だった。この本の中に出てくるジャムの実験の話はいろいろなところで引用されているので、出典を一度読んでみたくて手に取った。でも、蓋を開けてみれば、文化の話にまで及ぶなかなか肉厚な内容で、都度つど立ち止まって考えさせられるところが多かった。あと、お目当てのジャムの実験は一向に登場せず。まだ?、、、まだ?、、あれ、まだ?って感じで読み進めた。出てきたのは折り返してからで、やっと〜!って感じで、読み終わるまでかなり時間がかかったけれど、総じていうと面白かった。 

 まず、序章がオシャレ!オシャレ序章好きなので、出だしで心を掴まれました。 
 
 著者は、インド人の両親を持ちアメリカで生まれ育った人で、高校生の時に全盲になるのだけど、その生い立ちと、彼女が”選択”について興味を持ち、研究対象とするようになった経緯がドラマチックに書かれていており、オリジナリティと説得力のあるいい序文だった。
 特に、インドとアメリカでは文化が大きく異なり、それぞれの文化によって”選択”することの意味合いが違うことに気づき”選択”について興味を抱くんだけど、その一つとして結婚における選択について書かれている。
 結婚を家同士の結びつきとするインドでは、子供の結婚相手は親や親戚同士が決める。結婚する二人が初めてお互いの顔を合わすのは結婚式当日。著者の両親もそうだった。片やアメリカ。自由恋愛が基盤にあり基本的に結婚は当事者同士の合意で成り立つ。
 結婚において、本人の選択の余地がほとんどないインドに対し、ほぼすべてが本人に委ねられるアメリカ。
 日本は、インド型からアメリカ型へ移行した歴史がある。だから本人に選択肢がない結婚なんて過去の遺物のように感じるかもしれない。だけど、自分の意思による選択が、果たして一番適した結婚相手を選んでいるかは疑わしいし、その後の結婚生活の幸福度を約束するものでもない。
 アメリカや日本の離婚率は30%前後。インドは2%。離婚のしやすさとか世間体とかがこれまた違うので一概には言えないが、自分で相手を選択できないことが不幸なことだとも言えないということだ。

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 冒頭で書いた、ジャムの実験というは、選択肢が多すぎると売り上げは上がるどころかむしろ下がってしまうことを明らかにした実験。
 これはスーパーに来た客に対して行われた実験で、試食できるジャムの数が6種類のグループと24種類のグループのジャムの購買率を比較したもの。一般的に選択肢は多ければ多いほどいいように思われており、品揃えが豊富で選択肢が多い方が売り上げは上がると考えられていたので、試食を24種類の中から選べたグループの方が購買率が高いかと思いきや、実際は6種類の中から選んだグループの方が高倍率が多いという結果が出た。つまり選択肢の豊富さが必ずしも商品の売り上げにつながらないことを示している。
 その理由としては、選択肢が多すぎると決定を下すために脳にかかる負荷が大きくなるので、選択そのものが放棄されてしまうから。
 
 要するに、選択肢が多すぎると、私たちは選ぶのが面倒くさくなっちゃうと。確かにそうかもしれない。。。

 私たちには本能的に選択の欲求が備わっているらしく、基本的になんでも自分で選びたい生き物らしい。
 そして選ぶなら選択肢は多い方がいいと考える。だってより多くの選択肢の中から選べた方が、より良いもの、自分に最適なものを摘み上げられそうだから。
 でも、実際に選択肢が多すぎると選ぶのが面倒になる。だって選ぶと言うことは、選択肢それぞれの違いを明らかにして比較検討し、判断を下さねばならないから。

 読めば読むほど、唸る。これまでの自分の行動と真理を省みると確かにそうだ。

 特にジャムの味なんていう普段から自分の好みをはっきりと認識していないものについては。想像しただけで、選ぶのが面倒な気分になる
 もっと身近なものだったら、多少は楽になるけれど。例えば同じ型のセーター24色から一つを選ぶとしたら。ジャムよりは容易に選べるとおもう。なぜなら、好きな色や似合う色は普段から意識することが多いから。
 ブルベかイエベを基準にすれば選択肢は半分になるし、さらにそこから暖色か寒色かモノトーンかを基準にすれば、残る選択肢はわずかだ。ある程度知識があれば、枠の種類を変えて絞り込んで行きやすいので選びやすい。
 でも、ジャムはどうだろうか?普段からジャムを良く食べる人は、いちごよりブルーベリー、でも時々オレンジも食べたい、、、みたいに好みを自覚しているかもしれないけど、大抵の人はそうじゃない。だから24の選択肢が並べられても、セーターの色のように大枠で括って、選択肢を瞬時に絞り込めない。24個の選択肢がずらっと一列に並ぶ。一つずつ24この違いを検討していかなきゃならない。これはかなり手間がかかる。
 しかもジャムを必ずジャムを買わないといけないわけじゃない。考えているうちに面倒になり我に還る。なんでこんな苦労してジャム選んでるの?別にジャムいらないじゃん、と。で買うのを辞める。

 ジャムではないけど、そういう経験は誰でもあるんじゃないだろうか。私も山ほどある。先日、メガネ屋の前を通りかかった。横目に通り過ぎるつもりが、いつの間にか鏡を見ながら次から次にメガネをかけたり外したりしていた。買う気はないのに、選定が始まっていて、我に返ったのだった。
 
 誰しも、毎日大なり小なり選択して生きている。生きることは選択することと言ってもいい。そしてその人間が選択に関わる際に起こることや心理状態を、実験を通して科学的に解明しようと試みた研究結果が書いてある本だった。

読んでよかった〜。
面白かった〜。

やっぱり本は面白い。


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