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東京から南信州に移住してきました。田舎暮らしを通して感じたことを中心に、エッセイに綴り…

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東京から南信州に移住してきました。田舎暮らしを通して感じたことを中心に、エッセイに綴ります。スペルト小麦普及活動家。古民家カフェ「水土里の樹」代表。https://midorinoki.therestaurant.jp/

最近の記事

生まれる前からの約束

「ぼくが天使だったころ、お空の上からママのこと見てたの、お兄ちゃんと一緒に」 「お兄ちゃんが『先に行くね』って飛び降りて、その次にぼくの番が来たんだ」 「どうやってママのところに来たの」 「滑り台みたいなところをヒューンって降りてきたの」  次男が3歳の頃に、不思議な話を聞かせてくれた。 「ママを選んで生まれてきた」というような本のタイトルを、新聞広告で見たことがある。 スピリチュアルな世界に全く興味がないわけではなかったが、自分にとって都合のいい解釈をする程度だったので、次

    • 兄に会いたい

       父が母と結婚する前に所帯を持っていたことがあると、父の死後に知った。  血縁関係にある女性で、親戚の勧めで結婚したが、わずか1年と少しで関係が破綻したらしい。  男の子を授かったが、その幼子が生まれてすぐに、父は女性の元を去ったという。    父は六人兄弟の長男で、高校二年生の時に父親(私の祖父に当たる人)を癌で亡くしている。  祖母は家政婦や内職などしながら必死に家を守り、子供たちを育てたと聞いている。  父がどんな気持ちでその結婚を受け入れたのか、この世を去った人の胸の

      • 大型犬と暮らす3

         2歳の誕生日をむかえた冬、ジョンは家の中で寝るようになった。 相変わらずリードでつないだ状態ではあるが、室内用の毛布を用意したときのジョンの喜びようを今でもはっきりと覚えている。  いくら外気からガラスで区切られているとはいえ、それまでサンルームで寝ていたジョンはどんなに寒かったろうと思うと今でも胸が痛む。暖冬が続いていたことがせめてもの救いだった。  ジョンには、庭で放したときに急に興奮して飛び掛かってきたり、吠えたり噛みついてくる癖があった。常に繋がれているから、自由

        • 凍てつく季節

           暦の上では春分も雨水も過ぎたというのに、寒さが緩む気配はない。 日中の日差しは幾分強くなったように感じるが、気温は上がらず、雪がちらつく日が続いている。    以前「南信州の冬」というエッセイを書いた。 初めての冬は暖冬だったが、都会から移住したばかりの軟弱者に古民家の寒さは耐えられず、敷地内に小さな家を建てたという内容であった。 そのエッセイを読み返して、よくもまあ、あれくらいの寒さで大騒ぎしていたものだと苦笑いした。    移住して4度目の冬は、厳しい冷え込みが嫌という

        生まれる前からの約束

          大型犬と暮らす2

           少女時代の愛読書に「白い牙」という物語があった。 狼の血をひくホワイトファングは、勇敢で賢くて、優しさも兼ね備えた素晴らしい犬だった。 ホワイトファングは大人になってもなお、私の中に息づいていた。  初めてジョンに出会ったとき、盲導犬にもなるラブラドールだったら、賢くて忠実で忍耐強くて優しくて、そしておとなしい犬に違いないと、私は決めてかかった。  さて、実際にはどうだっただろうか。賢いから優しいまでは「すごく」もしくは「まあ」当てはまると言えようが、おとなしいとはまるで対

          大型犬と暮らす2

          大型犬と暮らす

           全くひどい話だ。 世のラブラドールの飼い主や、ラブの愛好家はきっと呆れるに違いない。  何の知識や経験もなく、一目惚れでラブラドールを飼い始めたのは2019年の正月明け、その時ジョンはまだ2カ月の子犬だった。 近所のスーパーマーケットの駐車場で、わんにゃんフェスタという催事があった。 山梨県にあるペットショップが大移動しての販売会、大型テントに子犬や子猫の入れられたケージやサークルが所狭しと並んでいた。  そのうちの一つに私の目は釘付けになった。黒い毛並みとつぶら

          大型犬と暮らす

          種をまく

           種ってすごい! あんなに小さなからだの中に情報が全部詰まっていて、日光と水分と発芽温度・・条件さえそろえば芽を出して、ぐんぐん伸びて、やがて花を咲かせ実をつけて、やがてまたもとの姿にかえるのだから。  また種まきの時期がやってきた。 移住して丸3年、野菜作りも今年で4年目だが、苗を植えるタイミングを見計らって種をまく(苗を育てる)という作業がなかなか難しく、種があるのに結局苗も買うという、バカらしい失敗を何度も繰り返している。  袋で種を買うと全部使いきれないから、もった

          種をまく

          田舎暮らしは忙しい

             春の使者であるフキノトウを見つけてからは、つくし、よもぎ、フキ、タラの芽、のびる、おこぎ、筍と一気に山菜や野草が芽吹いてくる。  敷地の竹林から筍が採れるのだが、移住した年にはもう見るのも嫌なくらい次々と生えてきたので、水煮にして食べきれない分は、瓶詰にして翌年まで筍料理を楽しんだ。 保存食づくりというものは、大抵手間がかかるものだ。 堀りたての筍は、米ぬかと唐辛子で竹串がすっと通るまで茹でてから、鍋ごと冷ます。 その後水にさらして、殺菌ために酢水で10分煮てか

          田舎暮らしは忙しい

          南信州の冬

          夏山もさることながら、雪をまとった冬のアルプスはこの上なく美しい。 神々しい雪山を拝む機会は、以前はせいぜいスキーのついでに、年に一度くらいのものだった。それが今では、ちょっとその辺を散歩するだけで、朝も昼も夕方も、この素晴らしい景色がいつでも目の前に広がっている。 越してきて間もなく「凍みに気をつけて」とよく言われた。 南信州では雪はほとんど降らないが、特に朝晩の冷え込みが厳しく、凍るような寒さということらしい。 最初の冬となる一昨年に、その言葉の意味を実感

          南信州の冬

          ここで暮らしたい

           私は東京で生まれ育った。 両親の実家もそれぞれ都内にあったので、子供の頃長い休みじゅうを自然の中で過ごすという習慣はなかったが、田舎を持つ友人をさして羨ましいとも思わなかった。 ましてや遊びたい盛りの20歳前後ときたら、ちょうどバブル全盛期とも重なって、都心に暮らせる自分はなんて幸せ者だろうと本気で 思っていた。  それがどうしたことか、40歳を過ぎたころから突然田舎暮らしがしたいと思うようになった。主人に相談すると、ちょうど仕事に煮詰まっていた時期ということも

          ここで暮らしたい