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種をまく

 種ってすごい!
あんなに小さなからだの中に情報が全部詰まっていて、日光と水分と発芽温度・・条件さえそろえば芽を出して、ぐんぐん伸びて、やがて花を咲かせ実をつけて、やがてまたもとの姿にかえるのだから。

 また種まきの時期がやってきた。
移住して丸3年、野菜作りも今年で4年目だが、苗を植えるタイミングを見計らって種をまく(苗を育てる)という作業がなかなか難しく、種があるのに結局苗も買うという、バカらしい失敗を何度も繰り返している。
 袋で種を買うと全部使いきれないから、もったいなくて来年に持ち越すと、古い種は芽が出なくて、そうこうしているうちに種まきのタイミングを逃すということも多々あった。
 それでも、自分でまいた種が芽を出して立派に成長し、食卓に上るまでになった時の喜びといったら!おそらく経験した人にしかわからないことだろう。
 今までに種から作った野菜は、ラディッシュ、いんげん、とうもろこし、ビーツ、ブロッコリー、青梗菜、ほうれん草、ルッコラ、バジル、ケール、青じそ、赤しそといったところで、年々少しずつ種類も増えてきている。

 話は変わるが、その昔私は手紙魔だった。
好きな人ができると、とにかく想いの丈を手紙にぶつけずにはいられなかった。
今のように携帯もメールもネットもない、アナログな時代だったのだ。
 若いころ結婚前に遠距離恋愛をしたことがあった。
実際に彼に会ったのは片手で数えられるほどで、結局友達に毛が生えた程度で関係は消滅してしまったが、会いたいときに会えないもどかしさも手伝って、彼には本当によく手紙を書いた。
 何十年たった今でも彼とは年賀状をやりとりしたり、ほんの数年に一回lineのやり取りをする程度のつきあいが今でも細く長く続いているが、ある時のlineにこんな言葉があった。
「今日こっちは雪が降ってんけど、昔もらった手紙に雪の描写があって、それ思い出したで」
そんなことよく覚えていたね、と返すと、
「アヤコちゃんは文章上手やったからね」と。
 私はその時、手紙を書くことは種をまくことに似ている、としみじみ感じ入った。
人の心にしまわれた種(手紙)は、目には見えない形で成長を遂げ、ある時ふとその姿を現すのだ。
 そんな風に私の書いた拙い文章が、誰かの心に種をまき、ある時どこかで花を咲かせてくれたら、どんなに素敵なことだろうと思うのだ。

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