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04:つっこみ力をつける/調査・分析

ADのいないこの世界で若手クリエイターに伝えたい10の事 』の中でこれからは中盤となる具体的にカタチにしていく部分をテーマに記載していきます。

ここまで、自分の視点、他者の視点について記載してきましたが、これらは自分の内か外かという問題ではあっても主観に結びついていました。しかしそれはあくまで、前段の姿勢の話で、 皆さんがご存知のとおりカタチを作っていくにはさらに客観的な裏付けが必要となっていきます。

ここでインハウスデザイナーは強みのひとつである数値を元にした定量分析と事業の動きを決めるきっかけにもなる定性分析を利用して「客観的」で効果的な判断を探るわけですが、この「客観性」にはいくつかの課題があります。

今回はそれをアートディレクション観点ではどう見えるかについて考えていこうと思います。

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カフェに例えて考える

分析は定性・定量ともに各フェーズで必要とされています。まずはその意味と都度の役割をカフェの出店を例に考えてみましょう。(言葉の定義にちょっとブレがあります。ごめんなさい。もっといい表現があれば教えて下さいw)

❶ 出店条件の検討(PMFもしくはUXの方向性設計フェーズ)
調査・分析ポイントはどこを狙うかも含めたマーケットのシェアや状況。インサイトなど幅広く検討するフェーズ。ただし、必ずしも全てを0から検討するとは限らず、前提条件(土地を持っているとか、産業構造的に必ず勝てるなど)ありきで他の要素を検討する事も多い。
既存のカフェモデルにない提案を考えることから始めたり、人にどんなカフェに行きたいかを聞いたり、数字を持つカフェを洗い出したりするイメージ。
検討対象例
・どんなカフェにすべきか
・どんな場所にすべきか
・どんなメニューにすべきか
・どんなスタッフにすべきか
❷ カフェ構築方法の検討(UX→UI設計フェーズ)
①で決めた方向を具体化するための設計方法とその為の合理性を検討する調査・分析が相互に補完し合うフェーズ。
決まったカフェの方向性に対して、その世界観をリアルな世界で実現する為に必要な建築構造、インテリア選定、それを実現する為の予算とそのコストの適性さの調査などを行う。
検討対象例
・カフェをどう実現するか
・場所をどう確保するか
・レシピをどうするか
・スタッフをどう探すか
❸ カフェ運営(UI・UX改善)
②で決めた方向の精度確認とその中の課題、新たな可能性の洗い出しフェーズ。
作り上げた方向が間違っていないか確認しながら、運用上で気づいた課題、新たな可能性などを定性的に検討し、定量的に検証する。
検討対象例
・カフェの認知、満足度向上
・場所の認知向上
・メニュー・レシピのクオリティ向上、運用、新規開発
・スタッフの育成

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定量・定性まずはつっこむ

前述した❶のフェーズの調査分析は様々な職能の人間が考えますね。マーケットなどへの見解を込めて社長が企業時にこのモデルならいける!と判断する事も、全国の統計データを見てからの優良マーケット提案と言う形でアナリストから上がることも、世の中にないサービスという点でデザイナーから提案する事もあるでしょう。

この❶の0→1フェーズの場合、ある程度自由が効く様に見えますが、実際には純粋な0はあまり存在せず、ひとりで始めても自分というスタッフが営業向きなのか職人気質なのか、人脈が既にあるのかどうかなど様々な要素が影響します。
そこにどんな検討要素があるのか、別のnote(未来を見据えて設計をする。自社モデルの図解から始めるデザイン経営)でもう少し詳しく書いたかと思います。

仮にこのフェーズで、アンケートなどからカフェはある一定層が強く支持をしている猫カフェでいくと決めたとして、オーナーが提供したい(出来る)と思っていて売れる気満々のメニューに材料費のかかるパスタがあったとしましょう。

猫カフェは猫を愛でるカフェなので普通に考えると味わう為のメニューとの相性は良くはなさそうです。この場合、既存の猫カフェが持つ定量データと美味しいメニューなら売れると言う定性もしくはそれをテスト的に提供した結果良い定量データがそれぞれあるのかもしれません。

でも、それぞれがどんなに数字を持っていても一緒にしてしまったら双方の魅力を活かすことが難しいかもしれませんよと言う。これが本当にとても多くあるアートディレクションの最初の仕事で、今回のテーマ、定量だろうが訂正だろうが形にする責任で持って突っ込みまくる。つっこみ力です。

もちろん、戦略次第でやり方はあるかもしれません。ですが、戦略なくそれぞれの数字の定量データに期待して両方をただ盲信しただけでは、悲惨な結果が見えそうですよね。また、どんなものでもそうではあるのですが、全く異なる世界観同士を繋げるときはそれなりの工夫(時間・予算・スキルなどのコスト)が必要です。何もかもかかりますよとは言いませんが、コストが思ったよりかかるけれどその認識はありますか?とつっこむのもとても大事な仕事です。

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いい定量データが構築内容に合うとは限らない

猫カフェでそのまま考えてみましょう。
②のフェーズでは猫カフェを前提に現実化する方法を考えるわけですが、時にフクロウカフェがかなり数字が良いので、そのエッセンスを取り入れたいという話が舞い込んできます。

面倒くさいのはフクロウカフェの数字がいい事は事実だと言う事です。
ですが、猫カフェとフクロウカフェでは用意するべき環境もエサもスタッフのマニュアルも全く異なるわけです。もちろん、猫科と鳥類を一緒の空間に置くこともかなりハードルが高いでしょう。

仮に、エリアを分けてそれぞれを稼働させるとして、果たして両方と同じ店内で触れ合えることを喜ぶユーザーさんはどれほどいるのか、それに対する開発コストは?ADは時間も予算も有限な中で、最も効果的に答えを出す方法を模索します。その時、フクロウの数字はいいかもしれないけれど、今用意している内容とブレるのでやめよう。とつっこむのもまたADの仕事です。

そしてこれは、運営の中でも起こります。
猫カフェとして開店したのに、フクロウを取り入れよう!とか、売り上げが悪いから入りやすい入り口自動ドアなどに拡張しようなどと言うような話は本当によく出てきますが、猫カフェである事を無視して自動ドアにしても、猫を求めている人以外はお店に入っては来ませんし、下手をしたら自動ドアのせいで猫が逃げてしまうというバグが起こるかもしれません。

こんな馬鹿な話誰もやらないよ。そう思いますか?
「ブランド全体をクールな黒を基調としたサイトにしているのに、CVRいいらしいからとりあえず真緑のボタンを置いて下さい。」とかいう事ですよ。
流石に真緑は、、、という感覚的定性でも
緑がよかったケースの他の色はどうなっているのか?単に補色によって出た効果ではないのか?という定性と定量の深掘りでも、
真緑で行くからそれを基調に他を直してという意思決定でもいいかもしれませんが、とにかく、一つのエビデンス、一つの仮説で決めずに影響範囲を冷静に見て初めて客観性が手に入ったと言えるのではないでしょうか?
人は定量データを見ると客観的になったつもりになりがちですが、それはあくまで一つの側面でしかないのです。

数字自体が嘘ではなくともその解釈、採用範囲を誤れば、嘘に等しいものになる。分業の場合、分析者は予断を入れずに依頼された分析結果だけを出し分析を統合するのは別の人間という流れも可能かもしれません。ですが、ADのいない世界でみんなが定性、定量を持ち寄るのなら、定性に足りない定量面、定量に足りない定性面を、それが単体ではどんなに魅力的に思えても、それにひきづられずに結果として提供するカタチで判断するようにしなければなりません。

是非、自身やチームのデータを盲信せずにつっこみながら見ていく癖をつけて下さい。

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 次回のお知らせ

次回は具体化の流れから意味あるコンセプト(今回でいうとどんなカフェにするかのコア)を作り上げていく方法について考えていきたいと思います。

このnoteは下記でインデックスしています。
ADのいないこの世界で若手クリエイターに伝えたい10の事
少なくともあと、6本書くので良かったらお付き合い下さい。


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