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若さで家を買った話

 30代の半ばを過ぎ、周りの友人たちが子どもを持ち、家を買う人が増えてきた。都会じゃ考えられないかもしれないが、家族を持ち、家を持つという人生の流れに乗る人は、地方都市ではまだまだ多い。

 かくいう私も、子どもが生まれてから家を買った。団地育ちの自分からしたら、一軒家なんて夢の夢だと思ってた。ところがどっこい、なにを思ったのか、28才の時に、頭金ゼロ円の35年ローンで注文一戸建てを買った

 「頭金ゼロで買った」というと、「え」と驚かれる。しかも建売じゃなくて注文住宅だ。諸経費の支払いとかもせず、本当に数十万の引っ越し費用くらいの持ち出しだったというとさらに驚かれる。

 今思うと、「よくまあ決断できたもんだ」としみじみ20代の頃の自分を振り返る。26才で子どもを産み、壁の薄い賃貸住宅で、重低音のきいたステレオで音楽を聴く新婚夫婦と騒音問題が起こり、「そっちだって子どもの声がうるさい!」と言われた時に、夫ともどもなにかぷつりと切れ、現実逃避するように住宅展示場を見て回るようになってた。たぶん、それがきっかけ。

 明らかな太客でない私たちには、新人の若い営業マンがつくことが多かった。ぎこちない接客の彼らに、「お金はないけど家が欲しいと思ってる」と馬鹿正直に言い続けた。そうすると、だんだん「じゃあ買えるかどうか一緒に考えましょう」という営業マンが何人か現れた。
夢が現実味を帯び始めた。

 ぶっちゃけ、住宅会社としてはローンの審査が通ればいいのだ。そしてローンの審査のために必要なのは「将来滞りなく支払っていける条件がそろっているかどうか」。この将来滞りなくっていうのが肝で、私たち夫婦は定職があり、長い時間かけて払い続けられる未来があった。 銀行としても、返済期間が長ければ長いほうが利率で儲かる。

 かくして、35年フルローンの審査が降りた。
家を買うのってもっと辛抱や節約が必要なんだと思っていたけれど、わたしは気づいてしまった。
多くの人が家を買うために貯蓄を頑張るのは、なるべく短い期間でお得にお金を借りたいからで、ローン審査で滞りなく支払っていけるという信用を得たいからだ。

 私たち夫婦は、「お得さ」よりも「今すぐの満足」を求めた。
「手持ち資産」で信用を得るのではなく「時間」で信用を得た。
若さは、資産だ。28才の私たちは、その時の自分たちが持っている資産で家を手に入れたのだ。

 人の価値はそれぞれで、家に興味のない人もいるだろう。だけど、私はあの時、ほとんど勢いで家を買うことに決めて、今も満足している。
馬鹿正直に自分たちの希望だけを言う二人に、住宅会社も銀行もよく耳を傾けて相談に乗ってくれた。おそらく、未来の私たちに期待して付き合ってくれたのだ。ちなみにローンを滞納したことは一度もない。

 そして、いついかなる時も、人生の中で、「今」が「一番若い」。
 若さは、ただそれだけで価値がある。今がどれだけ絶望的でも、わずかな希望をもって行動すれば、どこかでふと夢が現実になるのではないか。

 ……なんてことを思いつつ。

 若さを武器に頭金ゼロで家を購入した、というお話でした。









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