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【あべ本#24】望月衣塑子・別冊宝島編集部他『伏魔殿 菅義偉と官邸の支配者たち』

表紙やタイトルは「そそる」のだが……

まさに「あべ本」といった趣きの表紙カバー。この写真を選んだ編集者の慧眼を高く評価したいですね。カバーの見返しの部分には、これまた「いよっ!減らず口!」と声をかけたくなるようないい表情の麻生副総理が写っています。

1月24日に発売されたばかりの本書。執筆者は望月衣塑子・田原総一朗・前川喜平・山田厚史ほか。なぜか表紙に名前の出ていない執筆者もいますが、そうそうたる面々であることは間違いない。

というわけで勇んで買ったわけですが、まず驚くのは字の大きさ。字が大きいということは、一ページ当たりの字数が少ないということ。しかも一ページにどんと掲載した写真も折に触れて差し込まれているので、全体の字数も少ない。正直、これで1500円取るのはどうなのか……と閉口する思いでした。

無残な結末

それでも内容に見るべきところがあれば惜しくない、その「見るべきところ」は新しい情報や見たことのない分析であれば、賛同できるか否かに限らずいいわけですが、この本にはほとんどそうした部分がありませんでした。あえて言えば定例会見の文字起こしくらい。

田原さんに至っては4ページのミニコラム。

望月さんは映画『新聞記者』の話と、これまでも散々語っている菅官房長官会見の問題指摘と、会見に出るに至った経緯。

前川さんは萩生田文科相の「身の丈」発言と入試改革の問題点を指摘しているので若干新しいかもしれませんが……。

あとは週刊誌や新聞、書籍などのメディアでこれまで報じられている内容を「テーマに沿ってうまくまとめた」といったもので、まとめ自体は確かにうまいものの、既知の話ばかり。

そのうえ、他の「あべ本」のように取り立てて突っ込めるところもないという無残な結末となりました。そもそも「書籍」として出すのに無理があるというか、ムックや雑誌体裁なら許容できた…のかもしれません。

プロレス界の大物が「乱入」

唯一笑ってしまったのは、話題の官邸主催「桜を見る会」に、マルチ商法が問題視されている「ジャパンライフ」会長に招待状が届いていたという件で、えっと思う人物に証言を求めていたところです。

1984年に、山口会長と安倍総理がNYで会っていた! という話で、山口会長のNY旅行に同行していたという新間寿氏が証言しているのです。

新間氏と言えば知る人ぞ知るプロレス界の大物。彼の証言によれば「確かに安倍晋太郎外相の秘書としてNY外遊に晋三が同行していたことは事実。山口会長ともNYで会っているが、両者には面識もないし何も知らなかっただろう」という。

これを受けて別冊宝島編集部はこう解説。

野党側が、安倍首相と山口氏の関係を結び付けたい気持ちは分かるが、当時の立場はまだ一介の秘書であったことを考えれば、新間氏の証言にも一定の説得力がある。

そのうえで、「なのになぜ山口氏が招待状を受け取っていたのかを解明する必要がある」としていて、確かにこの点はその通りだとは思うのですが……。

「桜を見る会」の問題にどうも興味が持てないのは、与党も野党もメディアもどっちもどっちな感じがするからであり、「名簿を出せ」「招待客の選定基準を明確にしろ」というのはその通りだと思う一方で、「出したらつまらないことで突いて大事にするに違いない」というのも見えてしまっているからです。

間もなく、毎日新聞「桜を見る会」取材班が『汚れた桜』という本を出すというのでこれはこれで読もうと思っているのですが……。

内容説明を見るとどうも怪しい雰囲気が漂っています。「疑惑に迫った」日数が49日間しかないというのも驚きなら、次の部分には唖然としてしまったのであります。

問題が発覚してから2019年最後の野党による政府ヒアリング(12月26日)までの49日間、できるだけ分かりやすく伝えようとしてきた記者たちの記録

この話、今も国会で取りざたされているようにまだ終わってないと思うのですが、「できるだけわかりやすく伝えようとしてきた記者たちの記録」をもう出版しちゃうんですか!? 疑惑も解明されていないのに?? 

『伏魔殿』の読者はどこにいるのか

話がそれました。『汚れた桜』はこれはこれとして改めて「あべ本レビュー」でもご紹介したいと思うわけですが、官邸批判もここまで雑になってくると、「こんなんじゃ首相の首なんて取れないよな」という虚しさだけが残ります。

『伏魔殿』も読まれている気配がないので、望月さんファンを中心に、ぜひ本書をお読みいただいて、多くの方の感想に触れたいところです。


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