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【あべ本#34】朝日新聞取材班『自壊する官邸』

■安倍批判の弾幕が薄いよ! 何やってんの

朝日新聞紙面でも連載していた「未完の長期政権」。安倍政権の総括をしつつ、そのあとを継いだ菅政権の課題を浮き彫りにしようという内容で、その連載が書籍化されました。

「え……新書なの?」と思ったのは、朝日新聞の気合が感じられないから。これまで、集団的自衛権行使容認やモリカケ問題などでは、四六判単行本でねっちりとインサイド情報含めて分析していたのに(「あべ本」1冊目でもある)、今回は新聞連載にさほどの加筆もないまま、しかも200ページに満たない新書での発刊ですか……とちょっとがっかりしました。

安倍政権批判の弾幕が薄いんじゃないですか?

安倍前総理の方は意気軒高、「再々登板もありか」などと言われているのに、安倍ロスに陥っている場合ではないですよ、朝日新聞さん。

おそらくは、「終わった政権の総括をしても本は売れない」という商売上の面や、取材陣を総括用に割くことは難しい、などの理由もあるのでしょうが、気合入れてがっつりカチコミかましてくれないと困りますよね。

■朝日の執着が感じられない

内容としては、小泉政権→民主党政権からの平成政治の課題として進められてきた官僚支配からの脱却、そして官邸がグリップする政治主導が安倍政権下で最盛期を迎えた結果、どうなったかというお話。朝日新聞が官僚主導をどう報じ、評価してきたかは私には記憶がありませんが、「官邸主導が効きすぎてさまざまな問題が噴出した」というのが朝日新聞取材班の総括のようです。

当然と言えば当然で、物事を「ちょうどいい」範囲で着地させるのは至難の業なので、ある問題がしぼめば、一方の問題が膨らむという、世の中とはそういうものなのでしょう。官邸主導が行き過ぎたからと言って、もう誰も「官僚+族議員が仕切る政治」に戻ってほしくはないでしょうから。

要所要所は押さえていて、例の「習近平宛親書書き換え今井ちゃん事件」や、ロシアとの北方領土交渉の大いなる後退に加え、「右派を抑えられる安倍だったから実現した日韓慰安婦合意」などの各イベントについて、おさらいするには悪くない内容となっております。

しかしそれだけに(悪い意味で)総花的になり、朝日新聞の「執着」が感じられない仕上がりになってしまった面もあります。もう飽きてしまいましたか? あんなにあなた方が批判論評してきた安倍政権には…、と聞きたくなる。

「これで終わりじゃないですよね?」

そんな気持ちにもなるというものです。

■「やるかやられるか」の世界

それにしても安倍前総理の「特定の官僚への信頼」は厚いようです。もしかすると、政治家仲間より断然、厚いのかもしれない。本書でも「今井ちゃん」への傾倒が指摘されていましたが、別のテキストでもこんな話が。

それは『プレジデント』誌(2021年7月16日号)の安倍前総理インタビューなのですが、〈第一次政権で一緒に挫折を経験した人たちと政権を奪還し…何人もの仲間ともう一度、官邸に戻ってくることができた〉として、二人の官僚の名前を筆頭に挙げているんですね。

やるかやられるかという政治の世界で、背中を預けられる相手、というのはそう多くないのでしょう。

本書も「敵味方を峻別する安倍政権的手法」を、トランプ的な手法と重ねて批判していましたが、朝日新聞にあれだけ「敵視」されたからこそ、過剰に味方陣営への傾斜が強くなった面もあるのではと思わざるを得ません。


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