8話、クエスト受注(6)

「おぉい! お前、ハイ・オークだってぇ?」
「「……」」

(面倒なことになってきたなぁ、無視しよ無視)

「なぁんで、この街にいるんだよぉ?」

(マジでだる絡みしてくるじゃん、誰か止めて……)

 リリが気づかれないように周りをチラリと見る。
 ニヤニヤと笑う数人の酔っぱらいの仲間。
 興味なさげな冒険者達。
 頼みの受付嬢も、黙ったままこちらをジッと見つめている。

「ここは天下のドラーテム王国だぞ! ルベルンダに帰れよ、鬼が!」
「……」

 ラーナは、慣れたものだと無視をするが、リリは我慢できなくなったのか、言葉を返す。

「ラーナを鬼って呼ぶのやめてくれません?」
「聞いてるのかぁ? おいっ! ちっせぇ黒マント、お前だよ!」
「まぁまぁ、お酒飲み過ぎですよ?」
「お前みたいな鬼が来ていい街じゃねぇんだ」

(はぁ? こいつムカつくわー! でも、もめ事を起こすわけにはいかないし)

「……」
「わたしのこと、無視しないでー!」

 ラーナは我関せずといった様相でクエストを選び続けている。

(ラーナのスルースキル高すぎでしょ! わたしもこの男も見えていないんじゃ)

 リリがラーナの顔の前でアピールするが、反応は返ってこない。

(あれれ? もしかして本当に見えていない?)

 少し不安になるリリは声を掛けようとした。
 だが、黙っていた受付嬢が咆哮のような大声で檄を飛ばした。

「あんたたち、黙ってな!!」

 ビクッ!!

 あまりの声にビックリしたリリはラーナの首元へと抱きついた。
 ラーナはそれすらも無視をして、まだクエストを選んでいた。

「相も変わらず、昼間っから酒をあおりやがって、情けないとは思わないのか!」
「酒を飲んで何が悪いってんだよぉ!」

(悪いだろうが! 働けよ!)

「アタシは怠けてないで、クエスト受けてきなって言ってんだ! 酔っぱらいでも出来るように、ドブさらいの依頼でも出してやろうか?」

 受付嬢はアンと言うらしい。
 酔っぱらいの態度や、彼女の口ぶりから察するに、それなりの権力を持っているのだろう。

(いいぞ、いいぞ! アン言ってやれ!)

 リリは心の中で、馴れ馴れしくアンを擁護していた。

「ハッ! ドブさらい? アン、それはないぜ」
「お前達はそんなに飲んで、討伐クエストなんて受けられるのか?」
「ハーハッハ、冗談がきついぜ、俺たちは冒険者だぜ? このチビよりもよっぽどな」

 酔っぱらいは、小馬鹿にしたようにラーナの肩をたたく。
 まだ無視を続けるラーナ、一枚の紙をボードから剥がし声を上げた。

「リリ、これにしよっ、ジャイアントスコーピオン!」

(見えていたのね、よかったぁ)

「っえ、っあ、はい」
「何とか言ったらどうなんだ? えぇ?」
「リリ行こうか、ここはお酒臭いし」
「フフッ、ラーナ煽り過ぎよ? この酔っ払い、器が小っちゃいんだから」

 リリは自分のことは棚に上げラーナを注意する。

「無視すんじゃねぇよ!」

(あぁ、やっぱり)

「おいチビ、聞こえてんだろ?」
「……」

(ラーナー、まだ無視するのぉ〜? っあ、もしかしてそれが目的?)

 リリはラーナの意図に気づいた、だからこそ先を見据えラーナの後ろに隠れながら返答する。

「あのぉ、もう出て行くんでぇー、黙って座っていてもらえます?」
「なんだよっ? ピクシー風情が!」
「だってー、あなたじゃラーナには勝てないんだから」
「なんだとぉー!?」

 ガシッ!!

 リリを叩き落とそうとした酔っ払いの手をラーナが止める。
 そして、ハァーッと大きくため息をつくと、ギロリと睨みつけ口を開いた。

「お前は、実力も図れないのか?」

(っあ、結構怒ってる?)

 ラーナの、冷たくも力ある言葉と視線。
 ひるんだ酔っ払いは、一歩後ずさりしたが、ラーナに掴まれた腕はピクリとも動かない。
 
「離せ、この野郎!」

 手を離したラーナに、酔っ払いはなおも絡む。
 ラーナは静かに淡々と答える。

「ジャイアントスコーピオンなんて、お前らみたいなチビができるわけ無いだろぉーが!」
「問題ない」
「おいおい、強がるなよ!」
「強がってない」
「ハッハッハ、まぁ俺なら余裕だけどなぁ! なぁみんな、そう思うだろ?」
「「ハハハッ」」

(……なんでこう、テンプレ通りに動くの? この男と野次馬達)

 関係ないリリの方が、明らかにイライラしている。
 ラーナを思ってか、先に食ってかかる。

「なんでラーナをバカにするようなことを言うんですか! あなたなんかより……」
「リリ! いいよ」
「でもっ……」

 ついついヒートアップしたリリを、ラーナが手で通せんぼして止める。

「フゥ……お前等が、できないやつを教えて? ボクが代わりにやってあげるから」
「っ! お前!」

 ラーナの言葉を聞いて、酔っぱらいはまたも拳を振り上げた。
 その時、
 バァンッ!! っとアンが受付を叩く音と声が響き渡る。

「二人共そこまでだ!! ここは喧嘩をするところじゃあない!」

 酔っぱらいは振り上げた拳を止める。
 ラーナもそれを見て、腰のナイフから手を離した。

(あっぶなぁー、下手をしたら、血みどろの酔っぱらいが転がるとこだったぁ、わたしももっと我慢強くならないといけないわね)

 リリは先程の自分の態度を反省する。
 そんなリリの気持ちとは関係なく、アンの言葉は続く。

「嬢ちゃん、因みにあんたはどれぐらい強いんだい?」
「さぁ? 比べたことないし分かんない」
「アタシをからかってるのか?」

 ラーナはため息をつくと、酔っぱらいを指差して言い放つ。

「こいつと百回やっても、傷一つ貰うことないぐらい」
「ハッハッ! いいねぇ、それぐらいの胆力がないと冒険者は名乗れない!」
「試したの?」
「あぁ悪かったな嬢ちゃん、オッケーだ」

 アンは悪びれもせずに謝ると、ラーナの希望に沿った新たなクエストを提案する。

「嬢ちゃんを信じてサウエムサンドワームをやってもらおうか、今はコイツを単独で討伐出来る冒険者は出張っててね、残念ながらここには一人もいないんだ、どうだい?」
「あんたは? それなりに強いんでしょ?」
「ラーナ、言い方! もっとおしとやかに……」

 ラーナのアンに聞く口調がきついままなので、リリは焦ってしまった。

「アタシかい? まぁ出来なくはないが、一人では御免だね」
「なんで?」
「そりゃ一人じゃ面倒だからさ、それにあたしは受付で、冒険者じゃあないからな」

 面倒という理由で断るアンに、ラーナは嘘つきと小さく呟く。
 それに気づいたリリは耳元で内緒話をする。

「な、何が嘘つきなの?」
「アンはボクらに、箔を付けようとしてるみたい」
「何のために?」
「それは……わからない」

(受けるべきか、断るべきか迷うわね)

 ラーナも即答は出来ないのか、フードを被ると顔を伏せた。
 そこにアンの態度にひるんでいた酔っ払いが、またも絡んでくる。

「ッハ! こんなチビなんかにサンドワームを任せられるかよ?」
「そーだ! そーだ!」

(また絡んで、周りも寄ってたかって野次を飛ばすなんて、ふざけるな!)

「あんた達は黙ってな、どうせ怯えて受けることすら、できないんだ! そんな奴がイキがるんじゃないよ! 男が下がる!」
「アンこそ黙ってな! コイツ等に、できるわけがないだろ?」
「いいよ、やってあげる」

 周りの様々な反応に、辟易したラーナはそう答えた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?