12話、ストーンフラワー(4)
「出来たよ?」
「あ、ありがとう」
(ラーナの無表情って怖いわー)
「リリの言った通りにしたけど、確かに切り落とした部分は食べられそうにないね」
「や、やっぱりそうよね……ほかは大丈夫そう?」
「うん、美味しそうな匂いだね!」
リリは凍り付いた、笑顔だがラーナの目が笑ってない。
その笑顔のままラーナはイヴァに問いかけた。
「それと、イヴァ?」
「なんじゃ?」
「ボクの分も、お酒出してくれる?」
イヴァが手をかざしアイテムボックスを出す。
「なにを出せばいいのじゃ?」
「ボクは火酒がいいな、持ってるんでしょ?」
予想外の返答にイヴァが言いよどむ。
「ひ、火酒なんか持っておらんぞ?」
「ボク知ってるんだから」
おそらくは確信をもって話しているラーナ。
それほどまでに口調に圧がある。
「い、いや……あ、あれは値段も高いし……リリに聞かんと」
助けを求めるようにリリに聞くが、イヴァの態度を見かねていたリリ。
応えるつもりはなかったので、優しく突き放す。
「ん? いいわよ、ラーナの好きにしたら?」
「だってさ」
更に詰め寄るラーナ。
しかしイヴァはまだ折れない。
「酒精もキツイぞ? ちっこいラーナには早いんじゃないかのぉ」
イヴァの下手くそな言い訳をラーナは遮るように催促する。
「ボクの分も!!」
「はい……なのじゃ」
圧に屈したイヴァは、木で蓋をし紐で結んだ壺を出す、ラーナはそれを無言で抱えると、焚き火へと戻っっていった。
「あー、あれはもう帰ってこないわね……」
「リーリー!」
「無理無理無理無理!」
この世界では酒に強い者をシーサーペント、更に強い者をレヴィアタンと呼ぶ。
ラーナは見ためにそぐわず、レヴィアタンだ。
(どんなけ飲んでも、ベロベロになったところは見たことないもんなぁ)
「あれ、金貨一枚したんじゃよ……」
「残念ねー」
ラーナの後ろ姿を見ながら、あぁ〜と俯くイヴァ。
その横でソフィアが「チーズはまだかい?」と気の抜けるような声で袖を引き、イヴァにずっと催促している。
頭をリリはポンポンと撫で
「気を取り直して食べましょ? もうすぐ蒸し終わると思うしね」
と声をかけると、イヴァも「そうじゃな」と返事を返してくれた。
少しはイヴァの落ち込みようもマシになったようだ。
(持ち直したみたいね)
リリはラーナの事を追いかけ、声をかける。
「ラーナー、火の通り具合を確認してもいい?」
「うん! どう? どうー?」
急かすラーナをなだめつつ、リリは針を一番大きな種に刺す。
ほとんど抵抗なく、スーっと下まで通り抜けた。
「大丈夫そうね」
「うん!」
「改めて聞いておくけど、火を入れても食べられそうな匂いは変わってない?」
「大丈夫、すーっごっくいい匂い!」
ラーナの大きなアクションと笑顔と声色で、リリはこれは確実に大丈夫だと確信した。
「じゃあ焼いたチーズを上から掛けて食べよっか、適当な大きさに切って盛り付けましょ」
「楽しみだねぇ」
「イヴァの分はチーズじゃなくてハーブと塩でも振っといてね!」
「オッケー!」
『完成!!』
【ストーンフラワーのチーズ掛け】
(私の予想通りに仕上がってる、完璧だわ!)
「「「「いただきま~す」」」」
「はぁ~~~、美味しぃ〜! ほっぺたが落ちちゃいそうだよ」
ほっぺたを支えながら言うラーナ。
「ボクあと五個ぐらい食べちゃおーっと」
とても気に入ったのであろう、焚火に向かうと直ぐに次を蒸しだした。
「美味しぃ……妾も初めて食べる味じゃ……」
噛みしめるようにゆっくりと食べ、ボソボソと呟くように感想を漏らすイヴァ。
(うーん、イヴァの復活には豪華さが足りなかったかな? チーズあげようかな? でもヴィーガンのイヴァには嬉しくないわよね……)
悩んでいたリリだが、ソフィアが話しかける。
「ワインに合うねぇ! お酒が止まらなくなっちゃうよぉ、そういえばリリちゃん毒は大丈夫かいっ?」
ソフィアは味よりも毒が気になるようだ。
「ソフィアもラーナの鼻の良さは知ってるでしょ?」
「知っているねぇ」
「ラーナが大丈夫って言ってるんだから大丈夫よ!」
「まぁそうかっ」
実はリリには美味しくなる、そして毒が無くせることを知っていた、ストーンフラワーの種が前世のある野菜にそっくりだったからである。
その予想も一口食べて確信に変わっていた。
(やっぱりジャガイモだったわね! この世界でジャガイモを手に入れられるなんてラッキー!)
しかも今回は半永久的に確保ができるのだ。
(ラーナのおかげて無くなることも無さそうだし、真似されないようにぜぇーったいに誰にもバレないようにしなくちゃ、フフッ)
喜ぶリリは、心の中でほくそ笑んでいた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?