8話、クエスト受注(4)
「ほえー、ここが冒険者ギルド! 頑丈そうな建物、おっきな扉!」
リリ達の目の前には重厚な石で出来た無骨と言い方が褒め言葉に思えるような建物。
三階建てなのだが、一階だけ天井が物凄く高くなっている。
まるで教会のような、特殊な作りの建物。
「ねぇラーナ、入り口大きすぎない? 行き来している人の4、5倍はあるわよ?」
「巨人族が来るかもしれないからって、大きな扉にしてるみたいだよ? ボクは巨人族は見たことないし、本当に来るのかは疑わしいけどねー」
「なるほどねぇ、それでこのサイズなのね、本物の巨人さんはこんなに大きのかぁ」
華美な装飾や、窓一つ無い真四角の巨大な壁、ラーナの倍はあるであろう大きな石を四角く削り、何段も積んである。
周りの建物と比べても明らかに大きい。
(壮大だわ、異世界だわ、感動するわ!!)
「この壁は、大きな石を積んで作ったの? こんな大きなもの、どうやって積んでるの?」
「さぁ? ボクには分からないけど、ハイ・オークとかオーガならこれぐらいは持てると思うし、力持ちの獣人とか巨人族が作ったんじゃない? この大きさの石だと、ボクの力じゃ少し大変かもしれないなぁ」
(ラーナは持ち上げられるのね……)
リリは素直に感動した、重機もなしにこんな大きな石を持ち上げられる人達がいる世界、まさにファンタジー、ここが異世界なんだと実感したからだ。
(せっかくだし、2階や3階も覗いてみたいなー、行ってもいいかなー? 外から遠目に見る分なら大丈夫よね?)
「ラーナ、わたし上も見てきていい?」
「いいよー、ボクはここで待ってるね」
「ありがとっ! すぐ戻ってくるわー」
ラーナに許可をもらい、リリは2階と3階を見に行くことにした。
異世界感の溢れる建物に、興味が抑えられなかった。
(一階とは違って華美な装飾はないのね、変な柄が直接掘ってあるわね。それに飾ってあるあれは……モンスターの剥製?)
小さな窓が所々にある、しかし色とりどりのカーテンで隠してあり、外からは覗けないようになっていた。
(一階の無骨な感じとは随分と雰囲気が違うわね、華やかに見えなくもないんだけど……)
ブワーッ!
「うわっとっと、上の方まで来すぎた? すっごい突風!!」
リリは風にあおられた態勢を整え、改めてギルド全体を見た。
ただの建物と言えば建物なのだが、要塞や刑務所にも見えなくもない、二階の紋様や色鮮やかな窓も宗教的と言われればそう見えなくもない、不安な気持ちが軽く芽を出した。
(やめよ、やめ! 風も強くなってきたし、もーどろっと)
「待たせてごめんね、はしゃぎすぎたわ」
「おかえりー、どうだった?」
「紋様とか、カーテンとか、あと剥製も飾ってあったわ!」
「へぇ、じゃあ偉い人か有名な人がいるんだろうね」
「なんで分かるの?」
リリは小首を傾げて聞くと、ラーナは冗談っぽく答えた。
「布や剥製は高いからねぇ、ボクも見てみたかったなぁ」
「わたしだけごめんー」
「いいよ」
[じゃ、気合を入れ直して入るとしますかー!」
「うん、わかった」
二人は少しだけ空けてある、大きな大きな扉を通りギルドの中へと進む。
入ってみると内装は飲み屋のような作りになっていた。
「人多いわー、今までの中でも一番活気があるわね」
「……うん」
(ラーナ、緊張してる?)
左奥の扉は全開になっており訓練所の様なものが見える。
逆を向き、右奥には受付カウンターとバーカウンターが並び、更に奥には石でできた階段がある。
フロア一面にズラッと不規則に並べられた机には、和気あいあいと干し肉を食べ、エールを掻っ込む人たち。
「っあ、あそこに獣人さん! リザードマンもいますよ? その奥は……人? エルフ?」
「……多分エルフ」
(ついに来た、冒険者ギルド! ラーナには申し訳ないけど異世界に来た以上、冒険者ギルドってすっごく楽しみにしていたのよねー、イメージー通りでワクワクするー)
急におとなしくなったラーナに対して、リリは落ち着きなく周りを見ながら、フラフラと当て所なく飛びまわり、周りの会話に興味津々で聞き耳を立てている。
「今日のクエストは大変だったなぁ」
「そうだな、まさかあんなところでジャイアントスコーピオンが出るとは思わなかったぜ」
「あの時、私が風魔法で撹乱しなかったら逃げられなかったわよ?」
「あぁ助かったぜ」
(あのパーティーは、人族と獣人族の混成パーティーね、猫の獣人さんカワイイー、モフモフして肉球に触りたーい! っあ、あっちはリザードマン! カッコいいー)
「お前ら知ってるか? 最近、南の砂漠でサウエムサンドワームが出たらしいぞ?」
「本当か? ガセ掴まされただけだろ?」
「そうだぜ、まだサンドワームが出てくる時期じゃないだろうに?」
「ここだけの話だがな、商人が何組かやられたらしい……」
「まじかよ……それじゃあ、オチオチと外にも出られないな」
(不穏な会話しているわね、サンドワーム?)
「ラーナ、サンドワームって知ってる?」
「すっごく大きい芋虫、馬車ごと食べちゃうんだってさ」
「馬車ごと!? それはヤバいわー」
「そんなことより、リリもそろそろ覚悟しといてね?」
「はい?」
(馬車を食べるモンスター相手にそんなことって、ラーナは相変わらず怖いもの知らずね)
リリの不安など気にも止めず、ラーナはゆっくりとフードから頭を出し頭を振り上げる。
ラーナのきれいな髪と可愛らしい顔、そして鬼族の証しである角があらわになった。
ガタッ、ガタガタッ!
一瞬、周りがざわめき、直ぐに沈黙が流れた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?