9話、サウエムサンドワーム(4)
「リリ!?」
「ラーナ久しぶりー!」
ソフィアから逃げてきたリリは、ラーナに明るく声をかける。
ビックリしたラーナはサンドワームを掴んだまま聞き返した。
「どうして来たの?」
「ソフィアがサンドワームは乾燥に弱いって言っていたから……来ちゃった!」
テヘッと舌を出すリリ。
ラーナは呆れてなにも言えないようだ。
「……ハァー」
「っあ、ラーナため息ついたー!! ひどーい!!」
「リリは本当にリリだなぁ」
「んーん、褒めてるよ?」
「あらそう? ならいいわ!」
(褒めて貰っちゃったー!)
なにを褒めているのかは分からないが、リリは言葉を額面通りに受け取り喜んだ。
「それじゃあ、やっちゃおー!」
リリは両手を前に出し、魔法を繰り出す。
当たってはいるが変化は見られない。
(あれれー? 効いていないんだけどー)
「リリ! 火をつけないと!」
「あーそっか、でも薪が無いわ」
「なにをやってるのさー」
「ど、どどど、どうしよう?」
「リリ、とりあえず逃げて!」
「っえ? はい!」
リリはラーナの一言で、正気に戻った。
そこに足を引きずったダークエルフの少女が話しかける。
「焚火が、あれば……いいのかや?」
「だ、大丈夫? あなたフラフラよ?」
リリがそう聞くと、ダークエルフの少女が答える。
「だいじょうぶじゃ、ほれっ」
黒い靄から、薪がボロボロと零れ落ちる。
「リリ、そろそろもたないよー、離していいー?」
「じゃあラーナ、こっちの薪に火つけらる?」
「どわっ!! オークじゃ!!」
ラーナはサンドワームとの綱引きに飽きたようで、リリは火をつけられないのでラーナに頼んでいる、ダークエルフの少女はやっとラーナに気づいたらしい。
三者三様に話すが噛みあっていない。
「まぁいっか」
ドゴォォォン!!
ラーナはサンドワームを離し、思いっきり殴る。
物凄い勢いでサンドワームが吹き飛ぶと、岩へとぶつかった。
「じゃ、火付けとくね」
「あ、ありがと」
ビックリして固まったリリとダークエルフの少女を他所に、ラーナはササッと火を付け「じゃあ捕まえてくる」と言うと、サンドワームに向かって駆け出した。
(すごー! ラーナカッコいいわー!)
もう慣れ、感心するリリにダークエルフの少女がようやく口を開いた、
「な、なんじゃあの化け物!」
「わたしの仲間のラーナよ」
「て、敵じゃないのじゃな?」
「優しい子よ? ところであなたは?」
「妾か? 妾はイヴァ、イヴァンナ=ブリリオートじゃ!」
「イヴァさんね、わたしはリリ、足は大丈夫?」
「あとでよい、まずはサンドワームを始末してくりゃれ」
(古風な喋り方ね、まぁいいんだけどさー)
リリは改めて魔法を唱え、焚火から出る煙を集めていると、ラーナがサンドワームを引っ張って来た。
見ていたイヴァは、その場で腰を抜かしアワアワと言っていた。
「殴っても効かないから、持ってきたよー」
「ラーナ、重くないの?」
「ん? 問題ないよ?」
(本当に乾燥に弱いのか試してやろうじゃない!)
思いっきり溜めた煙のボールをサンドワームにぶつけると、サンドワームが叫ぶ。
サンドワームが身体を振り回して暴れるが、ラーナが掴んだ首元だけはピクリとも動かない。
「リリ、効いてるみたいだねー」
「……みたいね」
ソフィアに教えてもらった、という事実には納得がいっていないリリ。
しかし、少しだけ当てている場所が細くなっている様に見える。
パカラッ、パカラッ……
「やぁ君達、うまく行っているかいっ?」
相変わらず馴れ馴れしいソフィアは、空気も読まずリリに話しかける。
「いやぁ、どうでしょ? わたしも、よく分かっていないわね」
「そうかい、そうかい」
「リリ、首切っちゃうから、集中的におねがーい」
「はーい」
(そんな気軽に言うわねー、なかなか大変なのよ?)
「そろそろ切れるかなぁ」
ラーナはボソリと呟くと、サンドワームからおもむろに手を離した。
「ラーナ?」
リリが聞くとともに、サンドワームの首がドサッと地面に落ちた。
「よしっ、これで終わりー」
「あっという間だったわね」
「そんなに強くなかったからねー」
ラーナはサラッと答えた。
(強くない? 本当に? もしかして……)
「手伝う必要なかった?」
「まぁ一人でもなんとかなったけど、助かったよ」
「ならよかったわ」
笑顔で答えるラーナにリリの不安が少しだけ解消された。
実際、気を使ってくれていたのかもしれないが、それでもリリには嬉しかった。
普段からラーナに任せっきりにしていたのを申し訳なく思っていたからだ。
「それじゃ、切ってくるねー」
ラーナはリリにそう言うと、サンドワームに駆け寄る。
「はーい!」
返事をしたリリ、その横でドサッという音と共に、イヴァが倒れた。
「だ、大丈夫?」
「魔力が尽きた、あと……足が痛い」
「ソフィア、手当て出来る?」
リリもラーナも手が離せない、それどころか薬を持っていない。
しょうがないので、ソフィアに頼むことにした。
「しょうがないなぁ、手持ちの傷薬と包帯でいいかいっ? 報酬にツケとくからねっ」
そういうと、ソフィアはカバンから小瓶を出してパンの足にかける
(わぁお! どんどん治っていく!)
「これも報酬から天引きされるのよね? 馬車も含めたら……わたし達の報酬本当にあるの?」
ついつい気になったリリが、ソフィアに聞く。
(だって気になるじゃん! ガメついって言わないでー!)
「あるよ、多分だけどねー。はいっおーわり!」
イヴァの足には綺麗に包帯が巻かれていた。
(不穏過ぎる! ソフィアの多分って、わたし信じられないんですけど……)
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