9話、サウエムサンドワーム(3)


 ドドッ、ドドドッ、ドドッ……

 荷台をガタゴトッと大きく揺らし、大きな馬車が荒原を疾走する。

「もうすぐ?」

 リリは、ソフィアに目配せをし聞いた。
 ソフィアは直ぐに気づき、答える。

「この岩を回り込んだら、旋回して停止するよ、君たちの好きにすればいいさっ」
「わかりました……ラーナ?」
「……」

(あれっ? ラーナ、もしかして震えている?)

「どうしたの?」
「飛び出したいの、我慢してる」
「あぁ、なるほど」

(もう狂戦士モードなのね……ラーナは、戦いが大好きだからなぁ)

 緊張で震えていたのではなく、武者震いだったようだ。

「ソフィアは遠ざける?」

 ラーナの暴走が見られたくないのではと、リリは思い耳打ちした。

「いい! どうせソフィアは、ハイ・オークの本性ぐらい知ってるでしょ」

(確かにー、マッドで変態だし、そりゃ知っているか)

「君たち、コソコソと私に隠しごとかい? そろそろだよっ!」
「「大丈夫」でーす!」

(さぁ、サンドワームとご対面よ)

 馬車が大きな岩石の横を通り抜けた。

(ん!? 人が……)

「……うぎゃー!!」

 リリ達は、サンドワームに襲われ、戦っている人を想像していた。
 間違ってはいないのだが、見える人影がこちらに走ってきては、シュンと後ろへと移動している。

(テレポート?)

 サンドワームも荒ぶって地面から飛び出しては、地中へと戻るのを繰り返している。

(目立ったところに、傷は無いけど……)

 先程の会話で、傷があると言っていたのでリリも改めて見直すが、やはり傷は見あたらない。

「……テレポート、うぎゃー……ハァ、ハァ」

 何度も走っては、テレポートで元の位置に戻っているのが笑えて来る。

(必死なのも分かってはいるけど、おもしろい……)

 リリが込み上げる笑いを抑える中、ラーナが呟く。

「あのダークエルフ、多分もうすぐ食べられる」
「っえ!? なんで?」

 リリの目には、ちゃんと避けられているように見える、しかしラーナにはそうは見えていないらしい。

「足に大きな怪我をしているし……あれは、魔法なのかな? なんとか誤魔化しているけど、そもそも攻撃手段がなさそうだから、時間の問題だね」
「それじゃあ、早く助けに行かないと!」
「そうだね、どれだけ持つかな?」

 二人の会話をソフィアが遮った。
 
「ここらで停まるよ! 近づきすぎると私も巻き込まれかねないからねっ」
「わかったソフィア! じゃあリリ、ボクは行ってくる」

 ソフィアが見事な手綱捌きで、馬車をドリフトさせた。
 ラーナはその勢いを利用して、サンドワームの方へと飛んでいった、そのまま一直線にサンドワームへと、走っていった。

「ラーナちゃんはまるで投石器の石だねっ、獲物を定めたら一直線、あーコワいコワい!」
「ソフィア! なにを考えているの?」
「なにも考えてはいないさっ」

 ニヤけて答えるソフィア、リリは更に問い詰める。

「ホントは、望んでいた展開なのでしょう?」
「どういうことだいっ?」
「ソフィアはラーナの本気で戦う姿、見たかったんじゃない?」

 リリの質問にソフィアは「まぁね」っと言うと答える。

「あの娘への興味は尽きないよ、ハイ・オークは観察のしがいがあるからねっ!」

(やっぱりか、ソフィアは常に自分の為にしか動いていなかったからなぁ)

「目的は?」
「特にないよ、観察さっ、もちろん妖精ちゃん君もだっ」

 笑顔で聞くソフィアだが、その目は笑っていない。

「ふんっ! わたしには、その為だけに来たとは思えないけど」
「どう思うかは君の自由さっ、それよりも、いいのかいっ?」
「なんのこと?」
「私は生物の専門家だからねっ、分かっちゃうのさ」
「だから、なにが分かるのかって聞いているの!」
「サンドワームは、分厚い皮膚と水分を多く含んだ肌を持っている、だから物理攻撃は効きづらいよ? 効果的なのは火の魔法だ、乾燥に弱いんだろうねっ」

(やっぱり、話していない情報あったんじゃない!)

 グギィャアァァー!

 ソフィアが指差した先、サンドワームが雄叫びを上げている。
 リリは焦りながらも、じっと目を凝らす。

(……ラーナ……っあ、まだ元気そう!)

 ラーナは自分の何倍もあるサンドワームを、地面から引きずり出そうとしていた。
 その姿を見てリリは驚く。

「すごっ!!」

 対してソフィアは、頷いている。

「流石はハイ・オークだ、素晴らしい力だねっ」

 サンドワームには大きな傷、更にはラーナの投げナイフがたくさん刺さっていた。
 対峙して直ぐに首に切りかかり、ナイフを投げたのであろう。
 想定外なのは、ダークエルフの女の子。

(予定じゃ、逃げながら持久戦だったわよね?)

 このまま土の中に潜られると、女の子は助けられないとラーナは判断したのだろう。
 だからこそ、今の綱引きになっている。

(早く逃げてー! ダークエルフの女の子、逃げてー!)

 リリはその女の子が早く逃げるように祈るが、動く気配がない。

「なんで逃げないの?」

 リリの呟きに、ソフィアが口を挟む。

「君は手助けしないのかいっ? リ・リ・ちゃん!」
「……」
「あれれー? 黙まりかいっ?」

 ソフィアの煽るような言い方に、リリはイラッとして答えた。

「わたし、魔法苦手だもの……」
「ピクシーなのにっ? 君も不思議な子なんだねぇ」

 ソフィアの目がランランと輝く。
 リリの背筋がゾッとした。

「そんなことは、いい!」
「あれっ? 戦えないのに行くのかいっ?」

 リリはこのまま喋るとボロが出ると感じたのか、その場を飛び去りラーナの元へと向かう。
 もちろん勝算はあった、リリは乾燥の魔法をこの前に開発している。 

(アシュットウィンドでどうにかならばいいけど、ダメなら逃げればいいしね)

 今は些細なこと気にしていても仕方がない。
 リリは戦っているラーナの無事を願い、サンドワームの元へと向かう。


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