12話、ストーンフラワー(3)
そのまま暫くは、ラーナが種を集めては、酔っぱらいのイヴァが収納魔法で詰め込む収穫? を100発ほど続けた。
すると急にストーンフラワーの勢いが無くなってきた、リリには心なしかストーンフラワーが疲れているように見えた。
(終わりかな? もう少し欲しかったなぁ……)
すると急にストーンフラワーが大きく膨らみだした。
「あいつら逃げる、イヴァ弓!」
ラーナは何かを察したのか、イヴァに指示を出し自分は投げナイフを投げる。
二体ほどの蕾を落としたところで残りが赤い種を飛ばした。
一つはラーナへ、もう一つはあらぬ方向へと飛ばされた。
ラーナは自分に向かってきた種を難なくキャッチをしその場に落とす。
「おっとっとー、妾の実力を見せる時が来たのぉ! ヒック」
(この酔っぱらい、大丈夫なの?)
ふらふらとした足つきのまま、ギリギリと絞った弓を放つ、矢には紐がつけられていて綺麗に撃ち抜いた種を紐で引っ張って手元に持ってきた。
「っえ、意外なんだけど、イヴァもエルフらしい事できるんじゃん! 弓上手ぅ!」
(イヴァってもしかして優秀な子なんでは?)
「じゃろう? リリももっと褒めてもいいんじゃぞ?」
「それは遠慮しとくわ」
リリはこれ以上褒めるとイヴァが調子に乗りそうなので言うのをやめた。
「ところでリリよ、こんなにストーンフラワーの種を集めてどうするんじゃ?」
「もちろん食べるのよ?」
リリはキョトンとした表情で答える。
「私の話しを信じていないのかい?」
ソフィアが話しに割り込んでくる。
「まぁまぁ、食べてみてのお楽しみってことで」
リリは信じていない二人をなだめる。
「赤いやつ焼いた?」
「問題ない、これで完璧!」
そう言いながらもなぜかラーナの手にはまだ2つ赤い種が握られている。
「ラーナ? その手のやつはなぁに?」
そう言うとラーナはさっと手を後ろに隠し話す。
「こっこれは収納魔法で仕舞っとくの」
「えぇ!!」
「美味しかったらまた育てればいいと思うから……ボクが育てるからー、お願い、ダメ?」
「まじか! ラーナ食いしん坊過ぎでしょ!」
(……っでも……これって……何気にいい案なのでは?)
リリは心のなかで何かに納得して、イヴァに聞く。
「イヴァ、生き物もしまえるの?」
「そうじゃのぉ、この中は時間が止まっとるわけじゃなく、遅くなっとるだけじゃから、時間次第じゃないかの?」
イヴァの返事に、満面の笑みを浮かべたラーナが振り返る。
リリはそれを見て諦めた。
(あーはいはい、これは断れないやつね、ラーナがやるんだし、まぁ危ないことにはならないでしょ、多分……)
「わかった、許可よ! 許可する!」
「ありがとう、リリ!」
「その代わり危ないと思ったら直ぐに焼くこと! これが最低限の条件だからね」
リリは演技でうなだれるように答えた
「じゃあさ、じゃあさぁ普通の種を早く味見しよーよ! 今回も生で食べる?」
「今回は生では食べないことにするわ」
「毒があるから?」
「分かるの?」
「匂いでね!」
「わかったー!!」
ラーナは飛び上がるようにはしゃぎ喜んでいた。
その姿を見てリリは若干の罪悪感を感じつつも笑顔で答えた。
(ごめんね、ソフィアの前で前世の話はしたくないの)
「じゃあどうする?」
「毒は取り除いて、蒸してみようと思ってるわ」
「っえ? リリちゃん、毒が抜けるのかい? 流石は森の精霊だ、植物には詳しいんだねっ」
ソフィアはびっくりしたように聞きかえした。
「何言ってるの? わかるわけ無いでしょ?」
「取り除くって言ってたじゃあないか」
「それはないわー、フフッ、そこはラーナの鼻が頼りに決まってるじゃない!」
それを聞いたソフィアは、分かりやすく大きなため息をついた。
(誤魔かせた……かな?)
ソフィアの態度を見て安心したリリは、料理の準備を始めることにする。
(よーしっ、始めよ! って言っても今日は蒸すだけなんだけどねー)
「それで? ボクはどうしたら良いの?」
「じゃあラーナはこの種から芽と緑色の部分を取り除いて食べられそうなら蒸してくれる?」
「オッケー!」
「リリ、妾はー?」
元気な返事をするラーナと、何かをやりたがるイヴァ。
(どうしよ? マジでやることがない)
「えーっと……チーズでも焼いとく?」
「っえ! チーズ焼くのかいっ? 私も食べるー」
ソフィアが身を乗り出して話しかける。
リリはイヤそうに無慈悲に答えた。
「お金は貰うわよ?」
「まぁまぁいいじゃないかい、報酬出るんだろー?」
(はぁ、ふざけんな!)
「チーズは高いのよ?」
「イヴァちゃん、まずはエールとワインを出しておくれっ! チーズはもう少しだけ飲んでからにしよう」
「ソフィア名案じゃ! 妾が森で取れた秘蔵のアップルエールを出してやろう!」
「ヒューー、さっすがぁ!」
リリの言葉など酔っ払い二人には届いていないらしい、諦めて質問を変えることにした。
「朝から二人ばっかりずるくない?」
「リリよ、クエストも終わったんじゃし、ええじゃないかー」
「わたしも秘蔵のエール飲みたいのにー」
「飲めばいいじゃろ?」
「ラーナに悪いし……」
「よいよい、妾から言ってやる!」
(この酔っぱらい共、やりたい放題じゃない!)
さっきまでのやる気はどこ吹く風、酒の話ししかしていない二人にリリはうなだれた。
そこにラーナがゆっくり近づいてくる、にこやかだった顔は無表情になっている。
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