15話、とてつもなく大きな鶏肉(2)

「やっぱり大きいねぇ見てよこのサイズ! 美味しそー」

 大きな樽に水を貯め悩むリリにむかって、内臓を両手いっぱいに抱えたラーナが頬を緩めて声をかける。

「っえ!? ラーナ、また血みどろじゃない!」
「ンフフ」

 驚いて答えるリリだったが、ラーナの方は真っ赤に染まった姿で笑みを浮かべている。

「こんな大きいのはどう見ても食べ切れないって!」
「だったら、何日かに分ければいいじゃんか」

(分けるって言っても、どうやって……)

「っあ、イヴァ!」
「ん? なんじゃ?」
「収納魔法で仕舞った物って腐るの?」
「そりゃ腐るぞ?」
「今まで腐って無かったじゃない? 時が止まってるんじゃないの?」
「時は緩やかに進んどるし、温度の調節も出来んぞ」
「ってことは常温ってこと?」
「じゃな」

(ですよねー、この世界がラノベみたいに生易しかったら、わたしはこんな苦労はしてないわけで、そんな都合のいい展開があるわけないわよねー、わたし知ってたもんねーだ!)

 改めて突き付けられた現実に軽く落胆したリリは、イヴァに向かって軽く愚痴をこぼした

「イヴァの魔法って、便利なのは便利なんだけどさぁ、絶妙に使えないわよねー」
「なんじゃと!?」
「どうせなら、ついでに時間も止めて、冷蔵にしておけばいいじゃない!」

 溜息をつきながら答えたリリに、イヴァは憤慨して言い返す。

「リリ、お主が言うことが、どんなに難しいことか知ってるのかや?」
「わたしが知るわけないじゃない」
「異なる効果の魔法を同時に発動させるには、特別な制約をつけて縛らないといかんのじゃ、難しさはそうじゃな……火の燃え盛る大地で植物を育てるようなもんなんじゃ」
「……?」

(言いたい事はなんとなく分かるけど、絶妙に分かりづらい!!)

「イヴァ、そんなにイライラしてるとシワが増えるわよ? 年なんだからさー」
「怒らせとるのはどいつじゃ! 妾はダークエルフの中では若いほうじゃ!」
「まぁいいわ」
「よくないのじゃ!」

 リリはイヴァの言葉を無視して言葉を続ける。

「で、普通のお肉ならどれぐらい持つの?」
「お主は……フゥー、そうじゃなー……ビックボアの生肉で10日ってとこじゃな」
「ビックボアってイノシシよね?」
「まぁそうじゃな」

 リリとの一連のやり取りに疲れたのか、イヴァはスラスラと質問に答え、岩に座り足を組むと左手では杖を付き右手では頬杖をつく。
 随分と無愛想な態度だが分からなくもない、リリ自身も若干からかいすぎたかなと心の中では思っていた、しかし今は料理が優先だ。

(前世の普通の肉は冷蔵庫で約3日が賞味期限、でもこの世界は賞味期限よりも消費期限だろうし、解体から10日保つなら冷暗所位には持つって感じかなぁ? これからはアイテムボックスじゃなくて冷暗所って呼ぼっと)

 そんな無意味なことを考えながら、リリは結論を出す。

「イヴァごめんね、あとありがとう、とりあえず方針は決まったわ」
「…………あぁ、よかったのー、妾の分の野菜も頼むぞー」
「いつものハーブとオニオンで良い?」

 無言でシッシッと手を振るイヴァ、問題は無いらしい。
 リリはクスッと笑うと、ラーナの元に近づきつつ独り言を漏らす。

「とりあえず、内蔵は血抜きして片っ端から焼いて食べちゃうとして、胃と腸は念の為に捨てたほうが良いわよねー、身は……また燻製かぁ……この量……」
「っえ! 捨てちゃうの?」

 リリの独り言が聞こえたのか、ラーナが反応した。

(この食いしん坊、耳までいいの!? ラーナのステータスだけバグってる、わたしにも少し分けて欲しいんですけど!)

 リリは心の中で歯嚙みした後に、真面目に答えた。

「流石に家畜じゃないんだから、何を食べてるかわからない胃と腸はぜーったいにダメ!」
「ボクはお腹なんて壊さないってー」
「だめったらだめ」
「えぇ!!」
「守れないなら、わたしは作らないからね」
「……はぁい」

 渋々納得したラーナと、今回も徹夜になることを悟ったリリ。
 二人してハァーッと大きな大きなため息をついた。
 そんな二人の話しを聞いていたクラウディアが話しかける。

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