SS、ラーナ髪を切る

「髪を切りましょ!」

 ピクシーのリリが声を上げた。

「急にどうしたの? せっかく長くてきれいな金髪なのに、邪魔になっちゃった?」
「そうじゃないわ!」
「違うの?」
「ラーナの髪よ!」
「ボクの?」

 ラーナは自分の腰まである髪を、手で触る。
 確かに手入れは、ここ暫くしていなかったので、ボサボサに感じる。

「んー、確かに邪魔だねー」

 ラーナは一言そう言うと、おもむろに髪を束ねた。
 そして腰からナイフを取り出し、ザックリと切り落とそうとする。

「ちょっ、ちょっと!」

 ラーナの急な行動に、リリが焦って止める。
 しかし間に合わず、半分ほどになっていた。

「ん? どうしたの?」

 ラーナは、キョトンとした表情で聞き返した。

「そんなバッサリと」
「なにか、おかしかった?」
「んーそうじゃないけど……」

(おかしいわけじゃあないけど、もっとオシャレにとか考えよーよ、ねっ)

 リリは少しだけ思い悩んだが「っま、いっか」と零す。
 軽く整えるのみならまだしも、自分の髪を切ったことがないリリには、自分自身で切るとこんなもんか、と感じたからだ。

「それじゃ、わたしが可愛くしてあげるー」
「リリが切るの!?」
「何か問題でも?」
「だって、ナイフ持てるの?」
「っあ!」

 この世界の文明が、どこまで進んでいるのかは分からないが、確実に言えることがある。
 ラーナが戦闘に役に立たない、ハサミなんて持っているわけがない。

(あーそうだったー! ハサミ、無いんだったぁ)

 リリは再び「う~ん」と頭を悩ませる。

(でもラーナにだって、オシャレを楽しんでほしいわよねぇ)

「ボクは、このままでもいいよ?」
「えー、本当はオシャレしたいんでしょー」

 確信があるリリは、からかうように言った。
 ラーナは恥ずかしそうに、俯きながら答える。

「っま、まぁ……したい」
「やっぱりねぇ、そうだと思ったわ!」
「なんで分かった、の?」
「だってラーナの服、可愛いもの」

 ラーナの服装は、ピッチリ目の肌着に、真っ黒な腰布を垂らしている。
 胸当ては肩は空いているものの、手が隠れるほどの長さ。
 地球で言うところのチャイナドレスに近い様相だ。

(伝統的な服だとしても、実利的なラーナにしては華美だと思ってたのよねぇ)

 リリはおもむろにラーナの腰布を指差し聞く。

「こことか!」

 リリが指差した所は、赤い刺繍が施してある。

「そ、そうかなぁ?」
「そうそう、ここも!」

 リリが使い古されたマントめくると、裏地には紅い布が当ててある。

「見えない裏地にまで気を使うなんて、オシャレ上級者じゃない!」
「えっ、そう? えへへ……」

 褒められて嬉しかったのか、それとも見つかって恥ずかしかったのだろうか。
 ラーナは照れ笑いを浮かべ、リリに返事をした。

「ほらねっ! だからこそ髪型も可愛くしなくちゃね!」
「ボク、髪の毛を結うの苦手なんだよねー」
「そうなの?」
「なんか難しいよねー」
「じゃあ、わたしがやってあげる!」
「ホント!?」
「任せときなさい!」

 リリは、エッヘンと胸を張る。

「前髪を切るのは、自分で出来る?」
「それぐらいなら、出来るけど……」
「じゃあ前髪は任せたわ! かわいくしましょーねー」
「う、うん」

 ドギマギと、答えるラーナだったが表情は期待に満ち溢れていた。

「それじゃ、鏡を用意しないとね」

 ラーナが出したのは、よく手入れされた短剣だ。
 顔が映り込むほどに磨かれている、鏡の様な高級品を持っていないラーナには、鏡代わりになるのだろう。

(ワ、ワイルドね……)

 リリから見てもラーナの姿は堂に入っている。
 何度も鏡として使っていることが、容易に予想できる。

「わたしは編み込みをするけど、左側でいい?」
「いいよー」
「じや、やっちゃうねー」

 リリはラーナの髪の毛を引っ張り、三つ編みのように後方へと編み込んでいく。
 小さなリリにとっては、まるで綱引きだ。

「んーしょっと、なかなかにハードね……」
「無理しなくてもいいよ?」
「だいじょーーぶ、はいっ! これで終わりっ!」

 リリは最後に髪を紐で留めると、ポンポンッと叩く。
 ラーナはそれを手に取ると、他の髪とまとめて後ろで結んだ。

「どう? 良い感じ?」

 素っ気なく聞くラーナだが、見るからに顔が緩んでいる。
 相当にうれしかったのだろう、見ていたリリも嬉しくなってにやけてしまう。

「えぇ可愛いわ、それじゃ街に向かいましょー」
「ンフフッ、今度はボクがリリの髪を結んであげるね」
「ありがとっ!」

 それ以来リリが寝坊をして昼頃に起きると、たまに可愛くセットされることが増えた。

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