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赤い口紅

私は人生一度として口紅を使いきったことがない。今年で36歳だ。

この年になってようやく、今年あたりから日常的に化粧をしようという気になれた。そして、ファンデーションをぬったり、口紅をぬったりするようになった。

それまで、どうして化粧をする気になれなかったかというと、化粧は「男性に媚びる」という、こじらせから逃れられなかったからだ。

でも、最近、化粧をしないと顔色が悪い。
疲れていない時にも疲れているように見えるようにもなってきた。

いくら、パリにはすっぴんの日本人女性が多いからって

化粧したほうが相手にとって気持ちいいのでは?

という感じがしてきた。だから、友達と合う時にもちょっと化粧したりすることも増えてきた。それでもちょっとなんか言われるかな、なんてドキドキしている。

そして友達に

「あ!なんか今日違うね〜。いいね。」

と言われたのは、旦那さんに頼んで去年のクリスマス・プレゼントにもらったピンク色の口紅を塗っていた時だった。

うれしい!

ほめられた!

でも、やっぱり口紅は減らない。
もうすぐ次のクリスマスが来ようとしているのに、ほとんど減っていない。


この口紅、ただの口紅じゃない。ルイヴィトンのやつだ。
黄金のフタを開けて、口元に持ってくるだけで
別世界の香りがする。
こんなローズ、世界に存在しないんじゃないかという夢の香りだ。

ルイヴィトンの口紅を持って愛用している人だけが知る、秘密の香りだ。

仕事机に置いて、思い出したときに
そっとフタを開けて、香りをかいでみる。

で、またフタを閉める。

だから、やっぱり、全然減りません。


私はパリに住んでたりするってのに。
目の前には、真っ赤な口紅をつけて必死に、でもクールな風に大人になろうとしているパリジェンヌたちはいくらでもいるっていうのに。ピンクの口紅さえ使い切れない。

赤い口紅は、まだまだ私には遠い。遠い遠い、別世界のものだ。

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