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宅配のSさんの退職

ずっとお世話になっていた宅配の方が退職した。


ピンポンとインターフォンが鳴った。
モニターに映る見慣れた青い縦縞の制服に、
あれ?今日は宅配は無いはずだと不思議に思いながらドアを開けると、
「Sは退職したので、代わりにこの地域を担当させていただきますKと申します。」
と新しい顔の方が丁寧に挨拶をした。

わざわざご挨拶いただけたことに恐縮しつつ、
Sさん何故言ってくれなかったんだ…と強く思った。




Sさんを知ったのは5、6年くらい前だった。

良かったら使って!
と送り主(私)の名前と住所が既に印刷された伝票の束をくださったのがきっかけだった。

毎回送り主(私)の情報を書くのにヒーヒー言っていた文字を書く筋力ゼロの自分はとても感謝した。

相手はずっと前からこちらの存在を知っていたらしい。

小さいのに絵の具の所為でかなり重い箱や、
輸送ギリギリサイズのやたら大きいキャンバス、
頻繁に送られる取扱い注意品。

ただの民家から頻繁に面倒なものが送られれば確かに目立つかもしれない。


それ以来、
「宅配の方」から「宅配のSさん」になった。

Sさんはベテランらしく、ある時は2人組で来て相手を指導していた。


輸送費の値が上がった時は、本当ごめんね…!と申し訳そうに言った。

数cmサイズオーバーな時はどうにかして梱包を小さくしようと二人でワタワタした。

街で会うと、運転するトラックから「あやちゃーん!」と手を振ってくれた。
(ここ、東京なのにむちゃくちゃ地域密着だな??と少し気恥ずかしかったが嬉しかった)


絵画や画材、キャンバスの輸送
本当に色々とお世話になった。


ここ1年くらい前からSさんを見かける度、
疲れてそうだな…とは思っていた。

家の前に小さい丸太を立たせて置いているのだが、
私が出る間、そこに腰掛けて待っていることもあった。(丸太の隣に小さい丸椅子が置いてあるので、遠慮せずそちらに座れば良いのに…!)


若くは無い中、宅配は本当大変そうに見えた。


だから退職したと伺ったとき、しっくりときた。
そして、これから暑くなり更に大変な時期の前で良かったと思った。


しかし、なんで退職することを言ってくれなかったんだと思う。
せめて最後に挨拶させていただきたかった。

ちょうど先々週に街でトラックから手を振ってくださったのが最後になってしまった。

寂しいなぁ…と思う。


以前、個展のDMを渡したことがあった。
Sさんは営業所の方に宣伝してくれ、DMの隅に描いた宅配トラックの絵をとても褒めてくれた。

Sさんはじめ、運んでくださる方がいなかったら
描くことも、展示もできなかった。

本当に色々な方によって
制作することができると感じている。


どこかでまた会えるんじゃないかと思う自分がいる。

Sさん、
今まで本当にありがとう。



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