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「隠れ難聴」の大変さ、つらさを知ってほしいーー大学生のあかりさんとの対談


本日、あかりさんは、抱える周りから分かりにくい・理解されにくい「隠れ難聴」について知ってほしい!今「隠れ難聴」で悩んでいる人々の力になりたい!ということで、この度、対談をさせていただくことになりました。

■ あかりさんについて

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初めまして。大学4年生のあかりです。現在はインターン生として「学びを諦めない社会」を目指すNPO法人eboardで活動しています。大学では生物学を専攻し寄生蜂の毒について研究を行っていました。



■あかりさんのきこえ・コミュニケーション方法


あかりさんは中等度難聴者です。現在の聴力レベルは、左耳は感音性難聴で70~75db程度、右耳は伝音性難聴の50〜65db程度です。幼少期の時に突発性難聴を発症し治療が遅くなったことから聴覚障害が残りました。幼稚園〜高校までろう学校ではなく地域の学校に通っていました。親もあかりさんのことをあまりハンデがあるとは認識していなかったため、補聴器を使用せず、学校では席替えの際に、前の席にしてもらうという配慮のみを受けて生活をしてきました。大学に入学してからは音声コミュニケーションに限界を感じ、補聴器をつけて生活しています。

ずっと口話・音声言語を使用する聴者の中で育ってきたあかりさんは手話を日常的には使うことはできません。残っている聴力を使って補聴器を活用しながら口話で周りのきこえる家族や友達、先生と話をしてきました。


▼あかりさんのきこえのイメージ

・感音性難聴の左耳だけだと、プールの中に潜っているようなくぐもった・響いた音で、何と言っているか判別がつかない
・体温計のピピピ、時計の針の音はきこえない
・病院や受付の呼びかけが何と言っているか分からない(音はきこえる)
・口元が見えないマスクをしての小さな声〜普通の大きさの声が判別できない(音はきこえる)
・2m以上離れた所からの声が判別できない(音はきこえる)
・話しかけられている方向がわからない
・字幕がないテレビ・映画は音量を通常の2〜3倍にし相当集中しないとはっきりときき取れない。
・同時に数人が話すグループディスカッション・会議・数人のランチなどは声を拾うのに意識を過度に使い、疲弊してしまうため苦手である。
・専門用語が連発する大学の授業は途切れ途切れにしか単語が入って来ず、全ての発言を理解することは難しい。


■中等度難聴者(あかりさん)のきこえのイメージ

聴者の皆さんは中等度難聴者のあかりさんのきこえ方が分かりにくいかもしれません。例を挙げると下のようなきこえ方です。(聴覚障害はレベルや難聴の種類によって個人差が大きいです。)

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騒音の目安はあくまでも参考です。



■健聴者と障害者のはざまにいる「隠れ難聴」のアイデンティティーー

あかりさんの聴力は「きこえるけれどきこえない」というものでした。

音はきき取ることができ、それに対して相づちなどで反応することができます。ですが会話の中身は途切れ途切れの単語でしかきき取れないということが多くありました。


あかりさんをはじめとする中等度難聴者は耳から聞こえる音と相手の口の形を一緒に見て、「何ていっているか」を判断しており、きこえているから、反応できているからわかっているという訳ではないのです。

音が出ているのはわかるけれど、何を話しているか分からない。だけれど相槌は打て、近づいて何度か聞き返せば返答はできる。


もし、今まで普通に接していた周りの人たちに「実はきこえないんだ」と言ったらなんて言われるだろう?どう思われるだろう?ーーーと不安だった。



「私は障害者なのか?健聴者なのか?」



親にも苦しんでいることを伝えられず、健聴者の中で育った私は、無理をすればきこえるふりをして生活ができてしまうゆえ、あかりさん自身、きこえないことを受け入れられずにいました。

そんな中、あかりさんは「きこえないことをごまかす」「その場をうまくやり過ごす」ことを覚えました。

例えば、(なんて言っているか分からなかったけど)音に合わせて相槌を打ったり、表情や聞き取れた単語から今相手が何と言ったかを想定して返したりすることです。

このような憶測での返答は外すことも多く「〇〇ちゃんって天然だね」や「不思議ちゃんだね」と言われることも多くありました。本当は違うんだけどな、、ききとれなかっただけなんだけどな、、と思いながらも訂正することはできませんでした。

ですが、このような努力も虚しく、「間違えてはいけない」と聴こえるふりをしながら話していると、どんどんコミュニケーションを取る際の疲弊が大きくなります。最終的には会話する可能性のある場に行くこと・人と会うことすら怖くなってしまう、うつのような状態になることもありました。


■そんななかであかりさんの転機となったのは?


今まで21年間、このような「健聴者と障害者のはざま」で苦しんでいた私を変える大きなきっかけは大学4年生の春の就活でした。

就活では「きこえにくい・難聴である」ことを事前に伝えていたため、面接で難聴のことについて聞かれる機会が多くありました。いつから難聴なのか、普段どのように聞こえているのか、仕事上で必要な配慮は何か、困っていることはないか、、、、、当初は今まで人に話したことのない難聴について開示することはものすごく心のエネルギーが必要でしたが、何度も何度も面接で話しているうちに、「なんだ、こんなことで悩んでいたのか」と思えるようになったのです。

そして、段々と今まで伝えていなかった周りの健聴者にもカミングアウトができるようになったのです。


もう「きこえるふり」はしなくていい。


以前よりもすごく生きやすい環境を作れるようになりました。

「私は障害者なのか?健聴者なのか?」という問いには、今でも私ははざまにいると思っています。ですが、それでいいし、私の周りにいる人たちにも、はざまにいる自分を理解してほしいと現在は考えています。


■隠れ難聴を持つ人たちへのメッセージ


ろう・難聴と一言で言ってもその中身は人によって様々です。通常、片耳難聴や、軽度〜中等度難聴であれば、健聴者と変わらず生活ができ、困りごとが少ないと思われることが多いでしょう。


しかし、「隠れ難聴」という「周りから分からない」障害、人間関係やコミュニケーションに直結する障害だからこその、アイデンティティや人間関係に対する苦悩は人一倍抱えているのではないでしょうか。


ありのままの自分の状態を受け入れてみて、周りに開示をしてみてください。最初の一歩を踏み出すのは怖いけれど、きっと、もっと生きやすくなるはずです。

私の体験談が、私のように隠れ難聴で苦しんでいる人が一歩踏み出すきっかけになれれば幸いです。


■あかりさんのインターン先 NPO法人eboardのご紹介


最後に、あかりさんの所属しているNPO法人eboardのご紹介をさせてください!

私たちは「学びをあきらめない社会の実現」をめざして、様々な要因で学習機会を損なわれている子ども達の学習面での課題解決を行っているNPO法人です。

「隠れ難聴」で小〜高校まで通級等の難聴支援を受けられなかった私は、「授業の先生の声がききとれない」ことだけでその教科についていけず苦手になった経験があります。「この障害がなければもっと〇〇ができたかもしれないのに」と悔しい思いをしたことも多くあります。私のような「きこえ」で学びを諦めてしまう子どもたちを減らしたい!と強く思い、現在「やさしい字幕」プロジェクトに参加させていただいています。

現在、私たちは、学習のハードルが下がるよう編集された字幕の「やさしい字幕」をeboardが持つ国語・算数・社会・理科・英語等の動画教材につけることで、ろう・難聴の子、外国につながる子など、情報伝達や言葉に関する問題を抱える7万人以上の子の学びを保障する「やさしい字幕プロジェクト」という取り組みを行っています。
現在、ボランティアの方々の協力によりeboardが公開する小学校1年生〜高校1年生の範囲の1900本全ての動画教材に「やさしい字幕」がついています。


▼NPO法人 eboard 公式HP 

https://info.eboard.jp/?_ga=2.59938025.515508080.1630396116-349329832.1629790304


▼難聴児モニタリング募集

現在、「やさしい字幕」を使用して勉強をする難聴モニタリング生を募集しています!

・日時:ご希望に合わせて日程調整(応募フォームにご記入ください)
・対象:難聴をお持ちのお子様(対象:主に小中学生)の保護者様
・申し込み:https://docs.google.com/forms/d/1-MCqOn7I5ZwcU6MfORYy-rFhe6dpqbSoJ7B0n9UGCSk/edit


周りの友達・家族に教えるなど、小さなことからでもご協力いただけるとすごく嬉しいです。




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