ドラッグストアの月は綺麗だった
おやつの時間が過ぎた頃、カラスが鳴き始めたその頃、少し心が落ち込んでいることに気づく。
その「少し」が「たくさん」に切り替わって、スイッチが入ったように涙腺のダムは崩壊した。溜まりに溜まったモヤモヤした感情と、自分を否定する感情とが涙と共に溢れかえってしまった。
ほんとうは、ドラッグストアに行くつもりだった。
でもダムは崩壊するし、携帯の充電も外出できるほどの余裕がなかったから、「行くのめんどくさいな」と思い、机の下で地団駄を踏みながら、少しぐるぐる回る思考から距離を置いて時の流れに身を任せて少し経つと、溢れかえって崩壊したダムに、次の貯水の準備を始める余裕が出てきたことに気づく。
カラスも大きな声で鳴いていた窓の外からは、
「今日の晩ご飯、なあにー?」
という元気な声が聴こえてくる。
元気だったその声は、そのあと少し低く小さな声になっていたから、あんまりその子にとっては好ましくない料理だったんだろう。
案の定、低くなったその小さき声を、また高く大きくしようと慌てふためいている大人の声がする。
「もう、そんな時間なのか」
ようやく今の時間と、自分の心がさっきよりは下降気流を抜け出していることを自覚した。食器洗剤がもうなかったし、洗濯洗剤のストックも柔軟剤のストックも切れていたから、
「仕方ない」
そうやって重い腰を上げて、マスクをつけて鍵を手に取って、外に駆け出した。
いつものドラッグストアで、いつもの洗剤を手に取って、カゴに入れる。腕にのしかかる重力に耐えながら、子犬よりも重いカゴを持ってレジに向かう。
「今日はラッキー」
そう思った。
マスクをしていても伝わってくるにこやかな笑顔に、こちらのマスクに隠れた口角も上がってしまう。
レジでお会計をしてもらっているだけなんだけれど、心にふわあっと蒸気を送り込んでくれる、私と身長が同じくらいのお馴染みの店員さん。
店「ポイントカードはお持ちでしょうか?」
私「はい、お願いします」
店「いつも有難うございます」
「〇〇円です」
私「カードでお願いします」
店「一括払いで宜しいでしょうか?」
私「はい、大丈夫です」
店「有難うございました」
私「有難うございました」
そんないつもと変わらない、どこにでもありそうなやり取りなんだけれど、当たり前のように向けてくれるその丁寧な心配りは、ダムが崩壊した後の涙腺には、十分すぎるくらいの潤いだった。
今日、ドラッグストアで対応してくれた店員さん。
店員さんにとっては何気ないいつもの対応だったかもしれないけれど、おかげで私の心は上昇気流に乗れました。
本当に有難う。
そうやって心で感謝を送りながら、さっきより少し鮮やかな青色が際立った空を眺めたら、月が綺麗に顔を出していた。
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