冷蔵庫の肥やし闇カレー
最近、食欲がなかった。
そのしわ寄せがきたのか、肌荒れが目立つようになり、野菜不足が顕著になる。ただ、今日は少し用事がある。ぱぱっと手軽に作れて、野菜不足を補わなければならない。
そんなことを考えながら、頭の中で冷蔵庫の扉を開き、戸棚の扉を開き、家にあるものを探りつつスーパーの野菜の陳列を眺める。
そうして思いついたのはカレーライスだった。
小学生のソウルフード、給食の大人気メニューであり、お代わり争奪戦のレギュラーメニュー。中学校の給食の配膳中、制服のスカートに一杯分のカレーをぶっかけて恥をかいたのも、もう懐かしい記憶。
そんなカレーは野菜不足も補えるし、一汁一菜の要素がカレーライスには詰まっているとか、いないとかテレビで聴いた気がする。
そうして家に帰って、鍋をIHヒータの上に乗せて、その中に油を少量垂らす。スーパーで安くなっていた豚肉を鍋に入れると、右手は度々器用に炒め作業をしながら、にんじん、じゃがいも、玉ねぎを刻んでいく。
玉ねぎが飴色になってしなやかになり、豚肉の色がチャコールグレーに変化し、そしてじゃがいもの表面が薄く透明になっているのを確認したら、少しかぶるくらいの水を入れ煮立たせる。
大切なのは灰汁を丁寧に取ること。これでうんと味の深みが変わる。
具材が煮立ってきたらカレーのルーを入れ、とろみがつくまで火にくべれば完成。いや、IHだから電気か。手慣れた手つきでカレーを作れるようになったもんだなあと、一人暮らし5年目の年月の積み重ねを感じ、少し思い耽っていると、母の作るカレーを思い出した。
母の作るカレーには色々な具材が入っていた。
同居する祖父が帰宅する2時間前から我が家のカレー作りは始まる。
祖父が玉ねぎ嫌いなこともあって、祖父に玉ねぎが入っていることを悟られないために、ミキサーにかけ、匂いを漂わせない隠蔽工作を行う必要があるためだ。
そこから、冷蔵庫にある野菜はなんでもOK。そろそろ食卓にお目にかかれなくなりそうな、少しヤバめな野菜がレギュラーメンバー。
そんな瀕死野菜がレギュラーメンバーの野球チームは、サラダの甲子園では地域予選1回戦敗退間違いなしだろう。
時には大根、キャベツなんかも入った。
キャベツは溶けるからという母の謎理論のもと、2分の1サイズのキャベツが入っていたこともよくある。
冷蔵庫の肥やし野菜が大量に入ったカレーは、我が家の定番だった。
むしろ、今日のカレーには何が入っているか、クイズタイムが定期開催されていたし、口に入れるまで何が入っているかよくわからない時もあった。
まさに闇カレー。
そんなカレーを食べ続け、定番カレーなるものの味さえ忘れてしまいそうな頃、父がぼそりとこう言った。
「普通のカレーが食べたい」
冷蔵庫の肥やし闇カレーは、それからというものの、特番の放映くらいの頻度になり、今ではレアものカレーとなった。
それが、少し懐かしいうちのカレー。
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