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増やしていきたい「いつものお抹茶」

蒸し暑さの中を爽やかに吹き抜ける風に乗って、空の鳥たちも心地よさそうに飛んでいる。

暮れなずむ空を見上げながら歩みを進めると、駅の自動改札機に少し背伸びをしつつも、慣れた手つきでICカードをタッチしては通り過ぎる小学生たちがいた。

わたしの小学生の頃なんて、通学路に信号も無かったから、その小学生たちの姿が凛々しく少し大人びて見えた。

それでも、改札前に迎えに来ている親を見つけると、ぐっと上がる口角をマスク越しに滲ませ、今日あった出来事を盆踊りを舞うように、手をくるくる動かしながら嬉しそうに話している。

そんな姿を見て、やっぱり子どもなんだなぁと、微笑ましく思う。

そんな私はお土産屋さんに向かう途中だった。

ほくほくと甘みを増していた焼き芋感情を持ちながら、日程が決まった友人とのリアルでの「初めまして」を飾る手土産を選ぶため。

脳内で議論は白熱している。

そうしてある店で、友人の好みも、重さもありとあらゆる条件をクリアできているものを見つけた。

それを持っている友人も、喜んでくれるんじゃないかなぁという想像もできる気がして、焼き芋の蜜は甘みをまたひとつ増した。

より一層、会える時が楽しみになって、さっきの改札の小学生と同じ表情をしている自分を、窓ガラスに見つけてしまう。

少し恥ずかしくなってスマホを見るふりをして誤魔化しながら、それでも楽しみで嬉しい気持ちを募らせながら、さっきの駅の改札を再び覗くと、1人のおばあちゃんと、そこに駆け寄る小学生がいた。

「今日は、ばあばのお家にお泊まりだけど、飲み物買って帰る?それともばあばのお家のいつものお抹茶飲む?」

そう聴くおばあちゃんに、

「うーーーん、ばあばのいつものお抹茶かな!!」

なんて言う、小学生の答えに少し面食らってしまった。

それでも、その会話に出てくる「いつもの」というひと言に、私の心はじんわり温まった。

「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり」

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かみつれ

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