2021年も同人イベント危機は続くか(後編)

同人流通を支えるのは、リアルイベントでの衝動買い需要だ。
サークルスペースを徘徊し、直感で手に取って、何も考えず大量の硬貨…釣り銭が出ないように予め硬貨をコインホルダーのようなケースに準備するのが「訓練された参加者としてのマナー」らしい…を矢継ぎ早に出して渡し、それと交換するように渡された本をバッグに突っ込む。その流れ作業が至る所で発生し、それが新たな売り手と買い手の出会いを生み出してきた。

最近はオンライン即売会と云うものも出てきた…自身も一度主催した…が、あくまで販売チャネルは既存のネット通販支援サービスへのポータルと云う感覚だった。コミケが代替で始めた無料のエアコミケも、実態としては似たようなものだ。
ネット通販では基本、カートに品物を入れて支払情報や配送先を選択し、注文を確定させる。その一般的な手順で、一度に合計金額が表示されるが、仮にそれが同額であっても、硬貨を少しずつ、弾切れになるまで出すことで金銭感覚を麻痺させて購入しているのに対し、一度に多額の購入と云う現実を注文前に見せ付けることになり、それが結果的に購買意欲を押し下げる結果となる。

オンラインを使ったイベントは、売上を見ればリアルイベントへの依存度の高さを改めて示すこととなった。
積極的な購入を呼び掛けてもオンラインでの売れ行きは伸張せず、従来通りの発注数…印刷数…では在庫過多となる。その中で新たに印刷を発注するのは更に過剰在庫と大赤字を招くリスクが高く、結果的に印刷控えが起きる。
印刷業者にとっては冬の時代だが、象徴する出来事としてコミケのカタログ印刷を長年手掛けていた業者が廃業すると云うニュースも有った。夏コミは前編に書いたようにイベントキャンセルの発表が印刷後だったが、冬コミはサークル募集開始前に見送りが決定した。つまり、夏のように幻の冬コミカタログは印刷されない。それが致命的だったと言える。イベントが1つ消えただけで関連業者が廃業すると云うものが、目に見えて現実のものとなった。

次回のコミケは2021年5月の予定で、この記事を書いている現状ではサークル数を3割削減し、来場客も文面の解釈では半数以下に絞るらしい。つまり同人誌の流通量は従来より大幅に減少することが目に見えている。その分同人誌専門ショップに流通されるだろうが、それにも限界は有る。
ショップは都合が悪い、地方で遠征ができないなどでイベントに行けなかった者にとっては有意義な存在だ。オタクの聖地の代名詞である秋葉原でも、コミケ翌日…冬コミに至っては元日…には午前中から各ショップに入店規制が掛かるほどの列が形成される。中には、近隣のホールなどを借りて新刊限定の特設売場を設けるショップも有るほどだ。
それでも、リアルイベントを失ったサークルの補完としては限定的だ。

何としてでも印刷業者を残したい連中が、あのテこのテで仕事を回そうと奔走している。中には白紙のオリジナルノートや理想の妄想イベントのパンフレットを作成して配布しようと提案する猛者もいる。形振り構っていられない感が露骨だが、それほど、同人印刷業界は倒産廃業ラッシュも待った無しに陥っている。

イベントはコミケ以外も軒並み厳しく、延命のためにクラウドファンディングに手を出した団体も有る。中には目標金額を即時達成した団体も有るが、どれもが今後イベントが復活し、2021年以降の収束と共にイベント規制が緩和されることが前提ならば、当面緩和が望めない現段階では再度計画の大幅な修正を強いられる。訓練された参加者ならば、計画に狂いが出たための変更で追加の支援が必要になっても、イヤな顔一つせず金を出すだろう。同人文化と表現の場を守るためと云う大義名分が有るのだ。
しかし、一般的には計画変更で追加の支援が必要になったとなると、経営陣の入れ替えや資本の取り崩しなどが条件になる。ただ、それは同人イベント団体に要求したところで逆に袋叩きに遭う。あくまで同人イベントは非営利の表現文化の交流会と云う名目であって、入場料が少なからず発生する以上、イベントはビジネスとして成立すると云う意見は、タブーとして須く批判される。同人文化のダークな一面だ。
また、再支援の呼び掛けにオタクは何度まで応えることが可能か、も気になるところだが。

最大でも定員の50パーセントを上限とするイベント規制が有る限り、イベントの収益性は従来より悪化する。いくら来場客の入れ替わりが有ると云っても限度は有る。だからと、オンラインを活用するとしても、ネット販売が補完には役不足と云う現状も有る。
エアコミケなどのオンラインイベントとのハイブリッド化…つまりはリアルイベントと同時進行…にしたところで、イベント用のウェブページなどの制作や管理のコストは発生するが、それでいて使用する分には無料で、収益を補完するには役不足でしかない。つまり、従前通りのイベントが可能になるか、新たな収益構造を構築しなければならない。

同人業界は、業界に携わる者…イベント団体から来場客まで…が一蓮托生で存続させてきた印象が強い。それがこの1年で崩壊の危機に陥っている。イベントはその中核であり、しかし密集を避けられないことでリスケジュールやキャンセルを強いられ続けている。
冷たい言い方をすれば、それは仕方ない。これまでの

自身はコスプレ専門オタクだが、イベントの消滅をこの15年で幾度となく見てきた。それも時代の流れだ。
現に、今もイベントが激減した上に撮影案件も大幅に減少したが、だから思うことを忌憚なく、サブカルWEBライターとしてnoteに書くことに注力することにした。その時期にコミケの件が重なったことが、今の記事群のきっかけだった。

この1年で、全てが大きく変わった。同人イベントは生き残る術の模索に注力する必要に追われ、印刷業者も事業存続を模索し、サークル等は大赤字を承知で身銭を切る。このサバイバルレースは1年後も続いていると思われるが、その時どれだけの団体や業者が残っているのか。

何度も書いているが、同人イベント団体や印刷業者が廃れても、何だかんだで同人文化は生き残る。メインストリームがリアルイベントからオンラインイベントやECに移行し、また場合によっては印刷物販売から…好ましく思われないが…データとしてのダウンロード販売も広まるだろう。そうならざるを得ないと云った方が正しいか。
その将来を占う上で、2021年5月の最終日を終えるまでのコミケ、そして他の大手同人イベントの動向には注目したい。

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