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ジタバタした先にあるもの。|中川正子「みずのした」ブックレビュー

中川正子さんの新著「みずのした」を読んだ。

この本は、10年以上前から正子さんがつづってきた言葉に、みずから返事を書くような構成になっている。時にやさしく、時に厳しく。

そのころの自分のジタバタを、冷静すぎる視点で観察して、読んでいて痛くなるくらい精細に描写する正子さんを、なぜだか「めちゃくちゃカッコいい」と感じた。

水の上では優雅にカッコつけて、水の下ではジタバタとしている白鳥。
そうやってジタバタしながら必死にカッコつけて、人ってようやくカッコいい大人になるんじゃないかと思ったのだ。

いまも、定期的に自分を点検する。つい、待っていないか。既存の考え方に巻き取られていないか。「普通はさ」とか、くだらないこと言ってないか。ちゃんと、疑ってるか。変わることを面倒がっていないか。

「みずのした」中川正子

「ねえ、ジタバタしてる?」
人生の先を颯爽とゆく正子さんにそう問いかけられているみたいだった。

かっこいい大人には、饒舌に語っているように見えて語っていないことがある。
それは、たくさんジタバタしてきたからこそ手に入れた余白であり、優しさなのかもしれない。

人生のあらゆるフェーズを、その時の感情をすべて味わうこと。
それが「心のひだ」を増やし、その人を素敵にする。

トシオさんが正子さんに「わたしとの日々で学んだものはあるのか」と問われて返した言葉に、涙がわっと出てきて止まらなかった。(ぜひ読んでもらいたい)

振り返る景色は、たくさんの、ほんとうにたくさんの種類の喜びと哀しみとで、色鮮やか。今はまだ、痛々しくてなかなか受け止められなくても。それは間違いなく、素晴らしい人生だ。

泣きながら付箋を貼りまくった。とても素敵な本だった。

先日正子さんに初めてお会いして、西鉄バスの中で直接本を受け取った。その日のうちに読み始めた。正子さんに会う前に注文していた本がもうすぐ届く。今このタイミングで読むことができてよかった。

いろんな人たちが新たなフェーズに立つ季節。この時季に読むのにぴったりだと思う。



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