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フランスから、食関連ニュース 2020.09.09

今週のひとこと。

3つ星シェフ、ヤニック・アレノ氏とのコーヒータイムから思ったこと。

パリ左岸、7区に2年前に登場したグルメ散歩道「ボーパッサージュ」。1万m2もある土地で、所有する不動産会社が、住居のみにすれば、手っ取り早い多大な財産になるところ、カルチャーやアートを育む場所とすることを主眼に開発。アーティストの作品も点在させたグルメ散歩道とすることで新しい価値を加えたと、大きな話題となっていました。ピエール・エルメ氏のカフェやティエリー・マルクス氏のパン屋、アンヌ・ソフィ・ピック氏のカジュアル店、また京都初のコーヒー店「アラビカ%」も参加。3つ星シェフ、ヤニック・アレノ氏も例外ではなく、高級ビストロ「アレノ・テック」を出店しています。パリではあまり好まれない、人造的な商業施設ではありますが、周辺のサラリーマンや住人たちの憩いの場所ともなっています。アート作品が点在しており、聞けば、元首相リオネル・ジョスパンの娘の作品などもあり、政治力もうかがい知れます。ある日の午後、バカンス後の様子をうかがいに立ち寄ったところ、「アレノ・テック」のテラスにヤニック・アレノ氏が座って、店のシェフとミーティングをしているのが目に入りました。時間があれば同席しないかと誘われて、コロナによるロックダウンを経て、どんな心境に立たされ、今何を仕掛けているかを長々とうかがえる機会になりました。

アレノ氏自身がオーナーである、シャンゼリゼ大通りにある城館風の「ルドワイヤン」には、3つのレストランがあり、いずれもミシュランの星を獲得しています。3つ星の「アレノ・パリ」、2つ星でスシ店の「ラビス」、1つ星で高級ビストロの「パヴィヨン」。「アビス」、「パヴィヨン」はすでにオープンしており、客入りも上々だそうで、「アレノ・パリ」はまさに来週9月15日からのオープンに決定。10月からはまったく新しいスタイルで始動させるということでした。シャンゼリゼ大通りの緑を臨める2階の部屋には、テーブル毎に仕切りを設け、各テーブルに特化したサービスを配置。つまり、今までは、客室責任者が全体を見渡し、サービスの動きをすべて指示していたが、それを一切無くすということ。つまり、サービスのヒエラルキーもなくすことにもつながるのも、大切なことだと。お客には、予約をしてくれた時点から、コンタクトを取り、リモートでディスカッションを図って、お客の要望に100パーセント応えることのできる料理やサービスを用意する。つまり、オートクチュールにこだわる。ア・ラ・ミニュット(瞬時に作り上げる)が持て囃された時代は終わった。メニューにある通りの料理を作り、お客の顔もわからないまま、急いで皿を出し、それでミッションが終わったとしていた時代も終わり。これからの価値は、「時間をかけること」にこそある、と。テーブルの仕切りとする6枚のカーテンには、シャネルの作品も請け負うことで知られるアトリエの15人の職人が、まるでアール・ヌーボーの現代版のような、自然のモチーフを刺繍している最中だということ。アレノ氏にとって、まさに今依頼しているこのカーテンの刺繍は、来月から始動するレストランの料理のシンボルのようなものなのだろうと、氏の話し振りから感じました。

ロックダウン下において、少なからず、多くの人々が、自然や環境、健康を振り返り、人と人の触れ合いの有り難さ、時間の貴重さを改めて知らされることになったと思います。しかし、そうはいっても、明日の生活の心配をしなくてはならない層も激増し、悠長には構えていられないというのも現実。ただ、マクロン大統領から、経済の立て直しの声明があり、2030年を目標にエコロジーも含めた必要とされるセクションの雇用拡大、若者の機会均等などを目指すとのこと。2024年のオリンピック・パリ大会の話題が一切上らなかったのに、政策に対しての賛否が錯綜する今ではありますが、国力と推進力に信頼を寄せる機会にも。パリで悲鳴をあげている多くのレストランの弱点の一つが、地元の客ではなく、遠くからやってくる客への期待が大きかったように。目に見えず、消えてなくなってしまう目先のイベントが、いかに砂上の楼閣であったかということに、気づかされる機会にもなったのではないかと思います。それだけに、アレノ氏が今後挑戦していこうとしている、時間をかけて、人との関係も紡ぎ、心を込めて一皿一皿の料理を作り上げることは、それに関わる人々にとっての失われない価値となるのではと。

ハンディーキャップのある人の雇用も進めており、まずは「ラビス」でのサービスの1人。また受付にも、もともと料理人だったが、事故で片足を失った人を起用するということ。例えハンディーキャップのある人でも、他の従業員と同様に接する、扱う。また、アレノ氏がある調理師学校での男女比が、4対6であったのに、自身のレストランのキッチンはほぼ男性であるなど、見直しをしなくてはならない点だ、など。政府による政策に受け身で応えるのではなく、時代を感じ取ったオーナー達が自ら、キッチンなどからも機会均等を見直し、実践をしている。10年先に向けて動いている、スタート地点を垣間見ました。


今週のトピックス 【A】100%ナチュラル素材アイスキャンディーメーカーとマルセイユ3つ星シェフのコラボ。【B】元3つ星「アストランス」移転、11月にオープン。【C】老舗「カフェ・ドゥ・ラ・ペ」、リニューアルを前に家具を競売に。【D】2つ星ギー・マルタン氏、「グラン・ヴェフール」の営業権売却し、パリ中のビストロを手中に。【E】トラットリアをコンセプトにしたグループの大躍進、マドリッドオープン。

今週のトピックス。

【A】100%ナチュラル素材アイスキャンディーメーカーとマルセイユ3つ星シェフのコラボ。

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